■今捉えるべき「 生活先行層」とは
今回リサーチした「生活先行層」とは、昨今の働き方改革や、生活者ニーズとその行動実態から以下の条件とした。― 公私共に能動的に活動を行っている
― 本業以外に、自身の関心事・好きを核に置き活動をしている
― 自らが主宰者となって人が集まる場や活動を展開している
かつて、自らが主宰者となって活動していた人たちは、声高にそれをアピールし、その会自体がヒエラルキー型で運営されていた。今回会った主宰者たちは、そうしたアピールをしない分、一見すると“ 普通” に見えるかもしれない人が多いという印象を受ける。彼らは自らが「興味・関心を持っている」、「好きなこと」、「得意なこと」を起点に、自分の目の届く範囲にそのテリトリーをとどめるのではなく、人との関わりを通してそれらを掘り下げ・押し広げるなど、どんどん新たなフェーズへと転じていくことを楽しんでいるようだ。
■多様性の見える化・実感で改めて問われる自分らしさ
生活者の価値観を探るため、「普段心がけていること」を問うた結果(データ1)を見ると、世代差はあるものの「自分の好きなこと、得意なことをより深める」がトップに、3 位には「自分の好きなこと、得意なことは何かを探す」が挙がる。この自身の「好き」、「得意」にフォーカスする背景には、「多様性の見える化」の影響が大きいと考えられる。「多様性」という言葉を耳にすることが増え、リアルな暮らしの中でもインバウンド旅行者や留学生など外国人に接する機会も増えているが、「多様性の見える化」の背景にはやはり、2010年代のスマートフォンやSNSの浸透が大きいと言えよう。多様なヒト・モノ・コト・サービスと接触する中で、他人が何をしているかを常に目にすることになる。そこから、あらためて自分自身の存在、あり方に向き合う機会もまた多くなっている。成功像やライフスタイル像がどちらかといえば一様であった20 世紀・成長社会においては、暮らし方も価値観の持ち方も、一つのモデルを考慮していればそれで良かった。しかし、成熟社会といわれる今、さらに選択肢はとてつもなく多くなり、その取捨選択は個人に委ねられている。つながりを前提とした環境の中で、「大切にしたいものは?」、「心地よいものは?」、「最適なものは?」など、モノ・コト・サービス・関わるヒトの選択基準を、単に自分だけでなく、自分と身近な他者の関係性から考える必要性も出てきている。また一つの解に決めることでもなく、その時々の最適さ心地よさを求めるなど、状況に応じて変わることも当然のこととされる。■フラット化による逆転・流動化するプロセス
また、モノ・コトの価値のヒエラルキーが存在していたころは、物事が上から下へと一方向に流れていたが、デジタルツールの進化により、 モノ・コト・ヒトとの関わり方はそれぞれが水平関係になっている。20 世紀の常識として確立していた物事のステップも、枠組みも一様ではなく、売り手と買い手が相互浸透しているケースも少なくない。例えば、フリマアプリなどを活用してモノを売る生活者がその場で買い手にもなっているという(20 世紀の線引きで見ると)境界線が曖昧な状況は、モノの売買だけでなく、あらゆるシーンで生まれており、生活者の行動プロセスもまた逆転・流動化してきている。「生活先行層」の動向も、「好き」から始めた活動が多いため、オン・オフの境界は曖昧で一見個人的な趣味のようにも思えてしまうが、人との関わりの中で意図せずして新たなシーンが生まれ、それが仕事に発展するといったケースも見られる。
また、「生活先行層」の発言からは今の活動は「業界にとって」、「子育てママにとって」、「住んでいるエリアにとって」など、自身の「好き・楽しい」のバックボーンとなる環境、置かれている状況にまで範囲が及んでいることが見てとれる。社会意識が高いというよりも、「自分たちの活動をスムーズに進めていくための課題解決には取り巻く外的要因に必然的に目を向けることになる」といったステップを踏んでいる。あくまで自分たち目線であり、大上段に構える感覚はない。明確な意志を持ってはいるものの、柔軟性ある肩の力が抜けた感覚・姿勢こそが「21 世紀型ライフスタイル」の根幹を成していると言えそうだ。
モノ・コト・ヒト、さらに、時間・空間との関わりが流動的になる中、20 世紀的価値観や世界観はことごとく覆っている状況だ。そんな中、生活をするための仕事とは別に(最終的に集約されるケースも含め)、他者と関わりについて新たな試みを始めるような活動が活発になっている。しかも、以前のような閉じたコミュニティではなく、その都度さまざまな人が行き交い、内容も変化していくようなオープンな場が生まれている。そんなヒトとの関わり・時間の使い方がこれからの暮らし方の一端を象徴すると考えられる。よく、「モノ離れが進んでいるからコミュニティの提供をしなくては」といったマーケティング課題が聞かれるが、それ以前に20 世紀型から21 世紀型へと生活者の捉え方そのものを脱皮させることが最低限必要になるのではないだろうか。
〈今回ヒアリングした「生活先行層」のプロフィールの一例〉
ベンチャー企業役員/プリクラ上世代・男性 ⇒「花」好きで、どんな人にも花を身近に感じてもらいたいと花をいける会主宰。ただし、敷居を低くするため飲み会形式に。オーガニックやフィンガーフードなど話題の食を介しネットワークが広がる ⇒花材を仕入れるたびに市場の流れに疑問を持ち…。
編集業/プリクラ下世代・男性 ⇒ 「本」好きが講じて、事務所兼寄贈図書室をオープン ⇒拠点を持っていることで周囲の人が集まり、たまたま引っ越した先が消滅限界都市だったこともあり、地域のことを皆で考えることに ⇒さまざまな分野からゲストを招き定期的にイベントを開催。皆で地元の食材を食べながら対策を練るように…。
IT 企業勤務/ LINE世代・女性 ⇒「ファッション」好きで、海外の貧困層の子どもたちにもファッションを楽しんでほしいと有志を募りファッションショーを開催 ⇒アパレルや専門学校にも呼びかけ規模を大きくする ⇒貧困層の雇用を生む方法を考えたい…。
エンタメ系企業勤務/プリクラ下世代・女性 ⇒「ダンス」好きで、有職ママでもダンスを楽しみたいという思いから、ダンス好きママたちが交代でベビーシッターを担うダンスレッスンを開催 ⇒家族で参加できる季節イベントを定期的に開催 ⇒地域イベント参加依頼がくる ⇒育児ママでも気兼ねなくダンスが続けられる仕組みがつくりたい…。
〈「21世紀型ライフスタイル」に欠かせない要素〉
〈自己の考え方〉
○すべて自分の時間>オン・オフを分ける
・オン・オフ、公私などの概念が希薄。全て自分の時間
・効率を重視するからこそ、「無駄に思えるようなたわいもない時間」が人の豊かさをつくると捉える
○皆で>自分が
・自己主張、一人勝ちといった価値観は希薄
・誰かと一緒に何かをすることを前提
・自分でできないことは得意な人に任せる
・皆の中心にいることにこだわらない。仕切り屋は逆にダサい
・人が楽しむのを見るのが好き
○行動する>考える
・正解が分からない時代だからこそ、頭で考えるより動くことに注力
○流動的>固定的
・◯◯な人、◯◯な集団と括られることに忌避感
〈他者との関わり〉
○オープン>クローズ
・情報に対しては、アウトプットがインプットをつれてくるとみなす
○“好き・楽しい”でつながる
・“好き”の発信がきっかけで関わりが生まれる。つながりがつながりを生んでいく
○関わりが活動に転じる
・お互いの“ 好き” の関わりで、自然に新たな楽しみ方が生まれ、発展していく
・個人の趣味的な行為でスタートしたとしても、結局人と一緒に取り組む活動に発展することも
〈活動の考え方〉
○リアルにシェアする時間を持つ
・オンライン上の情報交換ではなく、リアルな人間的付き合いや感情の共有・交換から次なる展開が生まれやすい
○気軽さ優先>明確な目的・成果
・自分の“楽しい”を人にも楽しんでもらいたい。知ってもらうきっかけをつくりたい
・人をつなげることが好き
・結果は後付けで構わない
○結果誰かのためになる
・自分のいきいき気分が周囲のいきいき気分につながると考えている
・動いていると新たな課題が見えてくる
・発想は同じ境遇、関わる業界のためにつながる
・まわりまわって最終的には自分のためにもなる
自分の“ 好き・楽しい”が人の好き・楽しいとシンクロし、また誰かの好き・楽しいとシンクロする中で、少し新しい自分の楽しいに気づき、またそこで誰かの好き・楽しいとシンクロしていく。人の好き・楽しいとの出会いの力に連れ出され、少しずつ自分の好きの領域が移動しながら人の好きの領域につながっていく中で、それぞれの好き・楽しいが関わり合いながら次のフェーズへと続いていく