関西弁で新品のことを“さら”または“さらピン”という。関西以外のエリアの人には、“まっさら”という言葉の“さら”=新のことだといえば、理解していただけるだろう。関西人が“さら”という言葉を使う場合は、さら=全く使っていない真新しい状態のことを表現し、「この服、さらやで。」と、買ったばかり、またはおろしたてであり、それを自慢気に話すことが多い。
別に、関西人でなくても、一般的に日本人は“さら”であることが好きだ。正月にわざわざ、新しい下着をおろしたり、気合を入れる際には、服を新調したりする。フレッシャーズという商戦にも、新しい人生の門出を新しい服で飾るという意味が含まれている。機能や仕様があまり更新されていなくても、なんとなく「新製品」の方がいい感じがするという人も多い。
そんな日本人なのに、ファッションの二次流通が隆盛している。他人が仕様したいわゆる“お古”を買って着るというマーケットが伸長している。いわゆるフリマアプリの最大手であるメルカリのGMV(流通取引総額)のうち、ファッション分野だけで3000億円である。ファッションの二次流通全体では1兆円に迫る勢いである。ファッションの新品の小売市場規模7.5兆円と比較すると、1兆円という数字がいかに大きいかということがわかる。
若い世代が、“お古”を買うことに抵抗がないために成長していると言われているがそうではなく、中高年世代の利用もかなり多い。市場が拡大するにつれて、抵抗感も薄れてきており、さらに市場は拡大していくであろう。
ふと気づいたのだが、“お古”や“お下がり”という言葉には、“御”という接頭語がつくのに、“さら”という言葉にはつかない。“お下がり”という意味には、神仏の供物を下げたり、目上のものが使用したものを目下のものに与えるという意味があるから、“御”がつくということもあるだろう。でも“お古”の“御”は説明がつきにくい。
中古品に“御”をつけることで、より大事にしてもらえるとか、もっと愛着が湧いてくるのであれば、それは大歓迎しよう。より、サステナブルな世界に近づこうとしているのだから。
著者情報
第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ 小売業やメーカー向け戦略策定、商業デベロッパー向けの戦略・コンセプト策定・ディレクションなどが主な業務。時代を独自に読み解く視点で執筆・講演も行なう。同社ホームページにて「太田の目」を連載中。オリジナル調査「Key Consumer Indicators by ifs」のディレクターも務める。1963 年生まれの「ハナコ世代」。あいみょんの大ファン。
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