■バリエーションが広がる商業施設タイプ
筆者は過去、幾度も上海を訪問しているが、毎回「どこが最新で、何を見るべきか」と、頭を悩ませる。行くたびに新たな施設が登場し、これまでの情報が上書きされるためだ。また、さまざまなタイプの商業施設の登場で、面積や店舗数などの単純な比較では判断しにくくなってきた。分類方法についてはさまざまな意見があると思うが、本レポートでは、現在の上海の商業施設を以下の4タイプに分類する。
①大商業集積+エンタメ型巨艦施設
10 万平方メートルを超える大規模な施設が多く、200 店鋪以上の商業集積に、シネコンやアミューズメント施設などのエンターテインメント要素がしっかりそろっている。莫大な投資がかかるまさに王道商業施設。
②コンセプト型施設
規模でアピールするよりもコンセプトに基づくテナントミックスで編集されており、比較的高感度な施設。ライフスタイル系やファッション系の訴求が多い。
③リノベーション&コンセプト型施設
歴史的な建物をリノベーションしてコンセプチュアルに仕立て上げた施設。大規模な商業集積施設とは一線を画した、今はやりのタイプ。
④多機能集約型施設
施設は必ずしも大規模ではないが、比較的感度が高く、鉄道、住宅、オフィス、ホテル、商業などのさまざまな機能が複合的に集約されている。
この4タイプの特徴をもとに、本号では前編として、①大商業集積+エンタメ型巨艦施設、②コンセプト型施設を、次号の後編では、③リノベーション&コンセプト型施設、④多機能集約型施設を、事例を挙げながら解説する。
①大商業集積 +エンタメ型巨艦施設
このタイプは2000年代以降、10万平方メートルを超える施設が続々とできている。代表例は2002 年開業の「正大広場」。約25万平方メートル規模で、年間約3000万人が訪れる中国最強のショッピングモールの一つだが、今回は、浦東地区に2018年末オープンした「L+Mall」の事例を紹介する。
地下鉄・東昌路駅に直結し、面積14 万平方メートル、地上11 階・地下1階の施設には約300 店舗がそろう。中国ではよくあることだが、施設オープン後、3カ月を経て、ようやくフランスの老舗百貨店「ギャラリー・ ラファイエット」がオープンした。建築面積は約2 万3100 平方メートルで、内装のグレード感も高く、施設総面積の15%を占める核テナントの位置づけだ。パリ本店の本館1Fには、「シャネル」「、グッチ」「、プラダ」「、ルイ・ヴィトン」などそうそうたるラグジュアリーブランドがそろっているが、残念ながら上海では空き店舗も散見される。恐らく、ラグジュアリーモール(IMF)が隣駅(陸家嘴駅)にあるためで、「ギャラリー・ラファイエット」をもってしても思い通りのリーシングができなかったのだろう。一方、エンタメコンテンツとしてはIMAXシアターや、スノーボードを体験できるスポーツショップ「SNOW51」などがそろっているが、さほどインパクトは感じられない。他のテナントゾーンも集積はあるが魅力的なものは限られ、間延びしている印象は否めない。
「L+Mall」に限らず、大商業集積+エンタメ型巨艦施設では、市内の施設数増加に伴い人気テナントの争奪戦が激しくなってきて、都心一等地の新施設でも店鋪が埋まらないケースが散見される。集客装置としてのエンターテインメントコンテンツは、開発そのものに投資がかかるだけでなく、顧客に飽きられないためのリニューアルや入れ替えを頻繁に行う必要があり、鮮度維持のための費用がかかる。このタイプは最も熾烈な競争下にあり、優勝劣敗が顕著になりつつある。
②コンセプト型施設
コンセプト型の施設のトピックスとしては、東急電鉄が現地企業と提携して地下鉄「徐家匯」駅構内に開業した駅直結型商業施設「ライン プラス(LINE plus)徐家匯」(2017 年秋開業)が、「ランキンランキン(ranKing ranQueen)」を中心に日系飲食店等を配して話題になった。また、地下鉄・世紀大道駅近くにオープンした「1192弄」は、1930 年代の上海がコンセプトで、当時の町並みを再現した飲食店が並んでいる。こうした限られたゾーンで話題になった施設はあるものの、商業施設全体が明確なコンセプトを打ち出して展開された施設については、まだこれからではないかと思われる。
そこで、ここでは兆しという意味で、静安寺駅のPARK PLACEに隣接した「リール(Reel)」丙欧百貨を挙げたい。同施設は、建築面積約46,000 平方メートルで施設としては中規模だが、近年、ハイセンスな志向へとリニューアルして話題となった。独自性のあるセレクトファッションやおしゃれデパ地下、体験できるライフスタイル&カルチャーでまとめている。
1階は「グッチ」、「ラルフローレン」、「ランバン」などのラグジュアリー系に、フレンチレストランの「ジョエル・ロブション」が入っている。地下1階は「MUJI」や化粧品。地下2階はフードコートにはデパ地下的グルメを配し、2~3階は「アセンブル(ASSEMBLE)」という自主編集ファッションエリアがある。そして、4~5階はワークショップなどを体験できるライフスタイル&カルチャーのフロアだ。2~3階の自主編集ファッションエリアは、日本で言えば「伊勢丹」などの百貨店自主売り場や「バーニーズ」的なブランド平場となる。ライフスタイル&カルチャー売り場も、絵画教室や陶芸教室、クラフトワーク体験など、ショップごとにさまざまな体験メニューをそろえているのが特徴だ。しかし、館全体ではバランスがチグハグなためか、集客にムラがあり、販売や運営面でやや課題がありそうに思える。自主編集にこだわって体験型のコンテンツを強化することは新たなチャレンジとしては良いものの、ビジネスとしてはもう少しブラッシュアップが必要なのかもしれない。
「コンセプト型施設」で、中国でこれまであまり開発されてこなかった領域としては、日本の「アトレ」や「ルミネ」などのように、駅ビルを活用してOL特化で展開するタイプがある。「アトレ」は、初の海外店舗として今年1月、台北の「ブリーズ(Breeze)南山」内に「アトレ」を開業させた。上海でも、三井不動産が上海メトロとの共同事業として、上海地下鉄1 号線蓮花路(レンファールー)駅直結の「上海蓮花路駅ビル商業施設(仮称)」を2020 年に開業予定だ。商業施設部分(延べ床面積約31,000平方メートル、約90店舗)を三井が一括借上げして運営する。同社にとって海外初の駅ビル商業施設であり、上海市にとっては初の地下鉄駅再開発事業となる。開発テーマは「マイ・フェイバリット・サード・プレイス(My favorite THIRDPLACE)」とし、近隣住民の交流やにぎわいの拠点として、「家」と「パブリック」の中間の新たな価値を提供しようとしている。
(仮称)上海蓮花路駅ビル商業施設「(仮称)上海蓮花路駅ビル商業施設」完成イメージパース(同社HPより)
今後、上海でも駅の再開発が盛んになることが予想されており、日本のコンテンツがキーテナントになるケースも十分考えられる。
<後編に続く>