■生活満足度は減少傾向
ifs「生活者の気分」リサーチでは、「経済的にも生活的にも満足している」と回答した人の割合は2019年9月末時点で40.9%と、2018年の同時期と比べて3.9%も減少した。ここ5年ほどはわずかながらも増加傾向にあったにもかかわらず減少に転じた理由として、「働き方改革」や消費税増税などが、生活者の気分に影響したと考えられる。「働き方改革」は、一見すると自由な時間を生み出す発展的な施策に見えるが、旧態依然とした仕組みの中で進められても「時間や規則的な制約が増えて、かえって不自由になった」人や、時間給で働く人の中には労働時間の抑制により「収入が減ってしまった」などで行き詰まりを感じている人も少なくない。
年頭の記事ではまず「増やしたい気分」について語るのが恒例であるが、今年は、満足度の減少を裏付ける「この半年間で感じた気分」にも触れておきたい。というのも、弊社でリサーチを始めて以来、初めて3位~ 6位をネガティブ気分が占めるという結果になったからだ。3位「不安な・心配な」、4位「いらいらした」は、ここ数年同位に挙がっている気分であるが、5位の「不安定な・落ち着かない」は昨年の8位から、そして、6位の「あわただしい・せわしない」は10位から順位を上げた。これまで以上にネガティブ要因が強まり、その内容も精神的に切迫感のある状況であったことが推察される。消費税率の引き上げによるシステム入れ替えや、キャッシュレス推奨に付随したポイント還元事業の複雑さなど、自身の生活はもちろん、様変わりしつつある社会環境に右往左往させられているようだ。中でも「不安定な・落ち着かない」、「あわただしい・せわしない」と、他世代以上に感じているのはLINE下世代とLINE世代の20代半ば以下の若者たち。就職活動では売り手市場と言われていても、AIの発展により将来的に消滅する業種や職種を見極める必要がある。生活の多くの時間を費やすSNSも、「SNSは正直疲れる」(約30%)など、彼らの忙しさや不安定な気分を増幅させる要因にもなっているようだ。
そんな状況下の生活者が「これから半年間で増やしたい気分」(データ1)を見ると、「楽しい」、「安定した」、「穏やかな・安らかな」、「のんびり・ゆったり」、「いきいきした」が上位に挙がり、世代差も少なくその順位は昨年とほとんど変わらない。注目したいのは、「自信に満ちた」、「チャレンジする」、「贅沢な」、「波に乗っ__ている」、「刺激的な」などアグレッシブな気分は下位ながら、LINE下世代の反応が高いこと。ネガティブ気分が覆いかぶさる現状を打開するべく、期待感を持って行動しようという意欲が感じられる。
■次なる「安定」の確保を目指して
「 2030年に感じていたい気分」(データ2)では、LINE世代以外の全世代で「安定した」がトップに挙がる。あらゆる領域で変革に迫られる2020年代をクリアし、10年後には次代への暮らしの調整が一段落していることに期待している様子がうかがえる。
全体2位、3位「のんびり」、「穏やか」は世代差が大きく、上世代の反応が高い。一方、下世代は、「うきうき・わくわく」、「チャレンジする」、「贅沢な」、「波に乗っている」、「はなやかな」など、2020年にも増やしたいとする気分への反応が高かった。10年後というと、LINE下世代もアラサーになり、ライフステージ的にも新たなチャレンジが始まっていることを想定しているのだろう。
2030年の暮らしにタイトルを付けてもらったところ、「頑張りすぎない」、「無理しない」を共通姿勢としながら、中間世代ほど「わからない」、「先は読めない」といった回答が多く五里霧中感が否めない。中には「若者減少にともない、若者の役割も果たさざるを得ない中高年」など、解放されることのない道のりを予想して、やや重たい気分に浸っている感も表れている。一方、下世代は「安定と刺激の共存」、「未知との遭遇と安定」、「安定と社会貢献」といったタイトルが目につき、安定を確保しながら、自分の満足感を高めるための余地がセットされている。上世代は現状維持を意識しながら、「未知数の自分」、「波に乗り遅れない70代」、「今以上にパワフルライフ」など、いつまでも現役という感覚が薄れそうにないタイトルが散見され、人口減少・労働力不足によってシニア層の活躍が期待されている状況に光を見出しているようだ。世代ごとに、将来に想定し得る課題の種類も質も異なることがうかがい知れる結果と言えよう。
■上世代は地球目線、下世代は対人目線
「 地球環境や社会への配慮に対する意識」(データ3)は、その程度を4段階で聞いた上で、「とても意識している」と「意識している」を合算しグラフ化した。全世代でトップに挙がる「健康」は、唯一の自分事であり、自分自身のサステナブルを下支えするものとして意識・実践するものになっている。それ以外の項目では、上世代と下世代とでは関心の対象が明らかに異なっている。上世代が下世代を上回ったのは、「平和」(約20%差)、「地球環境」(約30%差)で、地球レベルでの安心・安全、穏やかな環境を手に入れることに目が向いているようだ。それに対して、下世代、中でもLINE下世代は、「民族・人種への配慮」、「ジェンダーへの配慮」、「貧困・格差への配慮」に反応している。教育はもちろんだが、学校の制服もスカートとパンツの選択化、学費の無償化など身近な変化として多様性をリアルに受けとめる場面が多くなり、自身の対応がイメージしやすいことが背景にありそうだ。SNSなどを介して人との関わり方に敏感な世代だけに、身近な人を取り巻く課題に関心が向くのかもしれない。消費に直結するか否かは難しいが、購入の選択基準にそうした問題への企業姿勢が影響する場面は多くなるのではないだろうか。
2020年代の生活者は、2019年から持ち越された宿題を解くべく、足元の数多ある不自然さをまずは改善することで10年後には安定を手に入れ、刺激を受けとめることのできる心の余裕を合わせて育んでいきたいと考えていると言えよう。