■ファッション業界で勢いを増すリセールビジネス
現在、米ファッション業界では、リセールビジネス(再販)が勢いを増している。世界のビジネス情報レポート及びサービスを提供する調査会社Global Data(https://www.globaldata.com/)の調べによると、2018年、中古アパレル市場規模はリセールEC、スリフト(リサイクルショップ)、寄付をあわせて240億ドルを突破し、5 年後の2023年には510億ドルに達すると予測されている。また、二次流通ビジネスは過去3年間、一般の小売市場より21倍も早く成長していることがわかった。少し前まで古着というと、他人が着古したイメージ強く、手にすることに抵抗があった人も多かったのではないだろうか。ところが、ここにきて従来の古着に対する消費者の意識に大きな変化が起きている。マスブランドの中古品に特化したリセールサイト「thredUP」(https://www.thredup.com/)が発行した「2019 Resale Report」(調査会社Global Dataが集めたデータや分析を含む)によると、2018年、18歳以上の米人女性2000人を対象にした調査に於いて、64%の女性が中古品のアパレル商品を購入もしくは、購入したいと考えていることが判明。2016年の45%から19%増加している。この数字からも分かるように、消費者の古着に対する抵抗感が薄れ、躊躇なく古着を手に取るようになったと言える。thredUPの設立者兼CEOのJames Reinhart氏は、「マスマーケットでもラグジュアリーでも、消費者は高品質な商品を手頃な価格で入手したいと思っている。そのために中古品を選ぶ」と語った。
■ミレニアル世代が支えるリセールブーム
https://www.ibtimes.com/shopping-trends-2017-how-millennials-spend-money-future-resale-2523879
https://www.kstatecollegian.com/2019/02/04/review-tidying-up-with-marie-kondo-makes-me-want-to-fix-my-messy-life/
二次流通市場拡大の背景には、ミレニアル世代やその後続世代であるGen Z の台頭により、「環境に優しいブランドを買いたい」と願う、エココンシャスな消費者が増えたことが大きな要因のひとつに挙げられる。特に、18歳から29歳の74%は、サステーナブルでエココンシャスなブランドを好み、自身の購買が環境保全にもたらすポジティブな影響を理解し、エシカルなショッピングこそ“新のラグジュアリー”だと考えている。更に、インスタグラム世代であるこの世代は、常に新しいスタイルや新商品を定期的に見たい、手にしたいという願望が強い事も、リセールブーム拡大の背景として挙げられる。thredUPは、そのような消費者のニーズを汲み、日々3万アイテム以上をサイトにアップしているという。
また、片付けコンサルタントの近藤 麻里恵さんもこのリセールブームに一役買っている。出演するNetflixの番組「Tidying Up with Marie Kondo」が配信されるや否や全米で大ブレークし、“Kondoingする”(こんまりメソッド実践の意)といった造語まで誕生。こんまり流の片付けに触発され、片付けを始めた人々が”spark joy”しない物(ときめかない物)を続々と、リセールショップに委託販売や寄付目的で持ち込む現象が起きている。
■「The Real Real」:
小売市場をディスラプトし、リセール市場を牽引
https://bagvanity.com/buy-discounted-designer-handbags-cheap-bags-online/
急成長するリセール市場を牽引するのが「The Real Real」(https://www.therealreal.com/)。2011年に現CEOのJulie Wainwrightによって設立された同社は、その名の通り、“本物であることを証明された商品”のみを取り扱う、中古品ラグジュアリーブランドに特化した会員制委託販売リセールサイトをサンフランシスコを拠点にスタート。ミレ二アル世代の富裕層と富裕層の顧客が大半のThe Real Realは、自社内に100人以上の宝石鑑定士、時計鑑定士、アパレル鑑定士を抱え、徹底した商品の鑑定・査定及び管理を行っている。また、The Real Realは、Ellen McCarthur 財団(https://www.ellenmacarthurfoundation.org/ )がファッション業界に資源循環を推奨するために立ち上げたプラットフォーム「Make Fashion Circular Initiative」に加盟し、「Circular Economy」(再生し続ける経済環境を指す概念で、製品、部品、資源を最大限に活用し、それらの価値を永続的に再生・再利用し続けるビジネスモデルの意)のビジネスモデルを導入することで、無駄を活用し、利益を生み出すことを可能にしたサステーナブル企業だ。
2018年7月にシリーズG投資で1億1500万ドルの資金を調達。累計で2億8800万ドルの調達に成功し、米国内8箇所に商品査定を行うオフィスの展開と、SOHO, LAに続く3店舗目の実店舗をNYのアッパーイーストサイド地区に開業。現時点での同社の企業価値は、7.53億ドルに至り、現在は株式上場に向けて準備を進めている。
■「Farfetch」:リセールサイト市場に参入。
「Farfetch Second Life」を開設
https://finance.yahoo.com/news/farfetch-breathes-life-pre-loved-designer-bags-144444474.html
昨年9月NY証券取引所に上場した英ラグジュアリーファッションEC「Farfetch」が、リセールサイト「Farfetch Second Life」を開設し、ブランドバッグの買取・販売サービスのテスト運用をスタートした(現在は英国のみのスタート)。ユーザーがサイト内で売りたい商品を登録すると、二日後にサイト内で使用できるFarfetchクレジットを前払いでもらえる仕組みを導入。同社は、昨年スニーカーのリセールサイト「Stadium Goods」(https://www.stadiumgoods.com/)を買収しており、リセールビジネスに本格的に進出し始めた。Farfetchはまた、The Real Realと同様にサステーナブルなビジネスモデル「Circular Economy」を導入し、Make Fashion Circular Initiativeに加盟。FarfetchのグローバルディレクターTom Berry氏は、「このサステーナブルビジネスは、Farfetchにとっても大きなビジネスチャンスで、従来の売ってしまえばそっれきりのビジネスモデルに代わり、新品と中古品を統合することが小売業者としての責任だ」と語った。
■リセールビジネスを支えるパワーセラー達
Nick Wilkins sells on StockX
https://www.complex.com/sneakers/2016/02/campless-stockx-launch
https://wwd.com/business-news/retail/behind-resale-power-sellers-1203117901/
カリフォルニア州サンフランシスコを拠点にするNick Wilkins氏は、プレミアムスニーカーをStockX(https://stockx.com/)上のプラットフォームで売る”Power Seller”の一人だ。転売ビジネスを始めたのは、大学生の時。現在一日およそ22-24足のスニーカーを売るNickは、2018年に比べ40%も売り上げを上げ、フルタイムのリセラーとなった。
Nickによると、商品の転売自体は最も簡単にお金が稼げる方法だという。しかしながら商品の発送、商品の受け取り、在庫管理や在庫のスペース確保に最も時間を要するという。StockXのプラットフォームを利用することで、StockXが売買の仲介に入るため、在庫管理や、インボイス、発送準備や物流のやりとりに時間をとられることなく、高い付加価値のある活動により集中できると話す。
StockXとは、Dan Gilbert, Josh Luberによって2015年、ミシガン州デトロイトで設立されたプレミアムスニカーの売買ができるオンラインマーケットプレイス。当初はスニーカーのみの取り扱いだったが、その後、時計、バッグ、ストリートウェアのカテゴリーを加えた。StockXは、透明性のある取引を使命とし、NY証券取引所と同様の仕組みを導入することで、スニーカーの価格変動率や、市場価値を導きだすことができるのが特徴。また、過去の取引履歴等のデータもサイトで確認することが可能だ。スニーカーの時価に合わせて、売り手と買い手はそれぞれ「売値」と「買値」を決め、StockXが売買を仲介するため、プライバシーを保ちながら匿名での取引ができることが人気だ。2018年の年間売り上げはおおよそ7億ドル。2018年9月、シリーズB投資で4400万ドルを調達し、累計で5000万ドルの資金調達を行った。
Laurel Preschutti sells on Depop
https://wwd.com/business-news/retail/behind-resale-power-sellers-1203117901/
https://www.forbes.com/sites/kittyknowles/2018/04/26/depop-ceo-solving-3-big-problems-for-young-cool-shoppers/#1d4cca847b40
Laurel Preschutti は、NYを拠点に2015年にリセールビジネスを本格的にスタート。FIT在学中にレアでハイエンドなヴィンテージのLevi’sの転売をはじめ、卒業後フルタイムリセラーに転身。現在はDepop上のプラットフォームでヴィンテージのデニム、ヴィンテージのデザイナーズランジェリーをリセール、またデニムのカスタムオーダーも行っているパワーセラーの一人。インスタグラムのようなソーシャル機能を兼ね備えるDepopは、コミュニティを求める若年層からのユーザー率が高い。また、売り手と買い手の距離が近く、売り手からフィッティングやスタイリング等のアドバイスをダイレクトメッセージでやりとりできるなど、シームレスでソーシャルな取引が受けている。Laurelは、Depop経由のデニム売り上げの収益で既に生計が立つという。最近は、自身のデザインスタジオもオープンし、自身のアパレルラインを準備中だという。
Depopとは、ロンドンを拠点に2011年、Simon Beckermanによって設立された次世代のソーシャルネットワークフリマアプリ。ユーザーの80%は、25歳以下の若年層だ。Depopの特徴は、Instagramのように画像投稿やメッセージ機能を持ち、売り手と買い手がソーシャルネットワーク上で交流し、フォローする相手から商品を直接購入できる点。かつてのフリマの概念である「不要なものを売りたい、安く買いたい」から、「ファッション性の高いもの売りたい、買いたい」を目指した結果、若年層のユーザーの大きな支持を得た。
今後リセールビジネスは益々拡大の一途を遂げそうだ。