■サーキュラーエコノミーの広がり
近年、新しい生産と消費の在り方を目指し、環境負荷軽減と経済成長を生み出す方法として、*サーキュラーエコノミー(循環型経済)が発案され、企業はこのビジネスモデルを導入することで、多くの無駄をなくすだけでなく、それを活用し利益を生み出すことが可能となった。今、世界の小売りがサーキュラーエコノミーの一環として注目しているのが、製品寿命を延ばすアフターケア・サービスだ。従来の“傷んだり、壊れたら即廃棄し、新しいモノを買う消費スタイル”から、“新しいモノを買わない”、“修理・修繕をして一つのモノを長く使う消費スタイル”へと変化が見られる。
今回は、進化するアフターケアと題して、アフタ―ケアサービス事例をレポートさせて頂きます。
■アフターケア・サービスをショップ内に併設しコミュニティを構築
新しいブランド戦略の一環として、ブランドや小売は、“Community first”というリテールコンセプトを掲げ、修理やクリーニングサービス、カフェやバー等をショップ内に併設することで、人々が集まるコミュニティをショップ内に構築することに注力し始めている。こうしたアフターケアサービスは、製品の寿命延命だけでなく、消費者とブランドの接点を増やし、ブランドに対する消費者の信頼やロイヤリティーを高める効果にも一役買っている。*サーキュラー・エコノミーとは、再生し続ける経済環境を指す概念で、製品・部品・資源を最大限に活用し、それらの価値を目減りさせずに永続的に再生・再利用し続けるビジネスモデルの意。
・Filson
米国アウトドアブランドのFilson(https://www.filson.com/)は、NYの旗艦店に於いて、無料の「Waxing and Whiskey」イベントを開催。顧客は、ウィスキーカクテルを飲みながら、コートのワックスがけをプロから直接を学び、他の参加者とも交流を図ることができる。Filsonは、顧客の役に立つようなサービスを実店舗で提供することで、コミュニティの構築に取り組んでいる。
・Sneaker ER
https://www.sneakerser.com/pages/sneaker-laundry
スコットランド・グラスゴーを拠点にするSneaker ER(https://www.sneakerser.com/)。Sneaker ERは、2015年、スコットランド・グラスゴー出身の熱狂的なスニーカーコレクター、AIとRobの二人によって設立された、プレミアシューズケアブランド。(ERとはEmergency Roomの略)。同フラッグシップでは、ショップ内に世界で最も大きなスニーカーランドリー、Allpress Espresso x SNKR カフェ、そしてリテールを併設することで、ショップスペースの中心にコミュニティを構築。顧客はスニーカーをクリーニングをしている間、コーヒーを飲みながら他のスニーカー仲間達と交流を図ることができる。サービスはクリーニングから補強サービス、シューズのカスタマイゼーションやヒールの修理まで。
・Bellstaff
ロンドンのリージェントストリートに佇む新しいBellstaff(https://www.belstaff.com/en_US/home)の旗艦店では、店内に修理・修復エリアを設け、無料のコーヒーの配布及び、無料のジンを提供するバーまでも設置。ブランドの新しいリテールコンセプトである“Community first”を体現し、人々が集う場所を店内に構築した。1階には、ハンドワックスサービスがあり、顧客は古いジャケット等を持ち込んでワックスをかけてもらうことができる、また、製品のお手入れとアフターケアクラスも開講。その模様はBellstaffのソーシャルチャンネルでシェアされる。
■ブランドとアフターケアエキスパートによる新たなパートナーシップに注目
アフターケアが進化する中で、新たな流れとして注目すべきは、確立されたブランドとアフターケアエキスパートによる新たなパートナーシップ。・Nike X Jason Markk
https://nike.jasonmarkk.com/
https://jasonmarkk.com/products/essential-kit-1
https://www.facebook.com/jasonmarkkinc/
NikeとLA発のプレミアシューズケアブランドJason Markkが2019年に行われたWorld Air Max Dayでパートナーシップを結んだ。Nike Plusの会員は、NikeのソーホーストアでJason MarkkのスタッフによるクリーニングとリペアのQuick Clean サービスを無料で受けられる。
Jason Markkとは、2007年、LAを拠点にJason Mark Angsuvarn氏によって設立されたプレミアムシューズケア・アクセサリーブランド。当時、スニーカー愛好者向けのシューズケア製品が市場になく、多くが自宅にある家庭用洗剤等を使用してスニーカーの手入れをしていた。Jason氏は、安全な成分を配合したスニーカー専用のシュークリーナーの必要性を感じ、開発を思い立ったという。2014年、LAのLittle Tokyo 地区に、スニーカーのドライクリーニングサービスをコンセプトとした世界初のスニーカーケアサービスをオープン。このフラッグシップでは、スペシャルイベントの開催や、Jason Markkブランドのフルライン及びその他、スニーカーライフスタイル商品が一同に揃う。また、経験豊かで知識豊富なテク二シャンによるクリーニングサービスを受けられる。Jason Markkの製品は現在30か国、2000店舗で取り扱われている。
・The Restory x Selfridges
https://www.selfridges.com/US/en/features/events/the-restory-london/
イギリスでは、鞄や靴の修理サービスのスタートアップThe Restory
(https://the-restory.com/)が、高級百貨店チェーンのSelfridgesと新たなパートナーシップを結び、ロンドンのSelfridges旗艦店内にショップインショップをオープン。鞄や靴など修理が必要なアイテムをここでドロップオフ・ピックアップできるシステム。ドロップオフされたアイテムはここからThe Restoryのアトリエに送られ、エキスパートによる査定を経て修理が行われる。
■ブランドが着手するサステナブルな取り組み:
再利用イニシアチブ
ブランドが着手するサステナブルな取り組みの一つとして、古い製品に修理やリメイクを施し再利用する取り組み“Repurposing Initiatives”が注目されている。その一例として、米国を拠点にするメンズウェアブランド「Taylor Stitch」(https://www.taylorstitch.com/)では、ブランド精神の一環として、適切なお手入れと修理によって長年着用できる製品をデザインするだけでなく、無駄を防ぐために、着なくなった古い服を買取り(ストアクレジットと交換)、修理・リメイクを施して再利用する画期的な買取りプログラム「Restitch」を提供し始めた。買取りされた商品は、修理及びリメイク後、安い価格で同ブランドのウェブサイト上で販売されるというシステム。
https://hypebeast.com/2019/6/arcteryx-rock-solid-used- gear-program-upcycle-sustainable-clothing-equipment
https://arcteryx.com/ca/en/
その他の事例として、カナダ発のアウトドアブランドArc’teryxでは、サステナブルな取り組みを強化するために「Rock Solid Used Gear」という買取りプログラムを立ち上げた。このプログラムでは、状態の良いユーズドギアを買取り(商品の小売り価格の20%相当のギフトカードと交換)、クリーニング及び修理を施し、新品の1/3程の値段で再販するというもの。消費者にとっては、前払いで低価格のテクニカルギアが入手でき、ブランドにとっては環境への負荷を軽減することに貢献。双方にとって、WinWinのプログラムだ。
■アフターケアサービスの広がり:
新ショップとスペース
アフターケアサービスが広がりをみせる、昨今、リテールでは、ショップ内にアフターケアやリペアサービス用のスペースを設ける動きが活発化している。特に新ショップではその動きが顕著だ。・LAを拠点にする新ショップ兼ギャラリーAtelier & Repairs
(https://atelierandrepairs.com/)は、ビンテージアパレルのセレクト展開及び、リペアハブとしても機能。修復・修繕サービスに加え、カスタマイゼーションや装飾サービスも行っている。
イタリアンラグジュアリーブランドIl Bisonteは、“ラグジュアリーとは長持ちする商品”だという。NY市内、Bleecker Streetにある最新店舗では、サーキュラーエコノミーの一環として、ショップ内に「Worn With Love Project」を併設し、熟練職人による高い技術と丁寧なサービスを提供。使えば使うほど美しくなるIl Bisonteの商品を楽しんでもらいたいとう。
アフターケアサービスは、今後は新しいものを買わないというサステナブルな消費者にとって重要なサービスとなり、今後も引き続き大きな成長を迎えると予測される。