10月からキャッシュレス・消費者還元事業が始まった。政府はキャッシュレス比率を2025年までに40%まで引き上げる(経産省試算の現状キャッシュレス比率は18.4%)という方針と、消費税率引上げに伴う需要平準化対策として導入された。
メディアでは、どの決済方法がお得だの、どこで買えば還元率が高いのだのと報道されている。買うものと決済方法の組み合わせをいちいち照らし合わせることの方が、却って消費意欲を減退させてしまう。かくいう私も、○○ペイにいくら、△△ペイにいくら、交通系ICカードにいくら、合計すると結構な額になるのに、少額ずつ分散させてしまい、使う際にはあらためてチャージが必要になり、「やっぱり日銀ペイ(現金決済)が一番便利でかんたん!」と感じてしまっている。
スマホ決済各社のサービス合戦は、しばらく続くだろう。誰がどれだけ顧客や小売店を囲い込めるかという覇権争いになっているからだ。かつての携帯キャリアのように、サービス競争の挙げ句、ガラパゴス化してしまったということだけは避けたい。現金決済比率が高いというガラパゴス化から脱却するために、還元などの施策を講じているのに、それが却ってガラパゴス化を促進しかねない。この時期にキャッシュレスが話題になっていること自体、すでにガラパゴスかもしれない。
キャッシュレス化で消費は促進されるのか?答えはノーだ。レジの行列が早く進むと人は列に並ぶので消費が促進されるという説もあるが、並ぼうとした時点で購買の意思は決定済みだし、レジ直前で客単価が上がるわけでもない。また、様々な決済方法が混在し、レジ作業に手間取っているイメージさえある。キャッシュレス決済が使えることで集客につながるとされているが、導入しただけで「あの店に行きたい!」という動機を持つ消費者は皆無だ。2025年の目標達成時ですら、まだ60%は現金決済だ。煩雑さは解消されず、コスト削減まで辿り着くのは難しそうだ。逆に完全キャッシュレスにした店舗は現金で払えないので、却って客足が遠のく危険性すらある。アメリカでは完全キャッシュレスであるはずのAmazon Goも、でスマホを持たない人のために一部店舗でキャッシュが使えるようにしているという。
消費を促進するのは、ブランドや品揃えやサービスであって決済手段ではない。決済手段で満足や感動を呼ぶことは至難の業だ。Cash Lessに振り回された結果、Value Less(買う価値のない)と判断されないように気をつけたいところだ。