■「上のリタイア世代と自分たちは全く違う」という自負を持つ
「この先シニア共同プロジェクト/ 男性版」では、Hanao世代と上のキネマ世代(1936年~ 1946年生まれ/現在71歳~ 80歳)と団塊世代(1946年~ 1951年生まれ/現在65歳~70歳)の違いを浮き彫りにするため、グループインタビューにワールドカフェ的な手法を取り入れた。最初はキネマ・団塊・Hanao各6名の世代グループで意見交換をしてもらい、次にメンバーを入れ替えて各世代2名ずつの3世代混合グループを作り、再度自分の属する世代グループへ戻る、というやり方だ。その結果明らかになったのは、上2 世代が経済成長や景気右肩上がりの恩恵を受けつつもそれを担ったのは自分たちという自負がある一方、Hanao世代は浮き沈みの激しい時代をサバイバルしてきた自負を持つことだ(図1)。バブル経済を謳歌したが、バブル崩壊やリーマンショック、それらに伴う買収やリストラも経験、「いい時代も大変な時代も味わった」自覚を持つ。社会情勢や経済状況の変化の波を浴び、苦しみつつも柔軟に乗り切ってきたことに、自信とプライドを持っている。
従ってリタイアは、上2 世代にとってはある意味人生のゴールだったのに対して、Hanao世代にとってはゴールなき人生、サバイバルゲームのひとつの通過点だ(図2)。キネマ・団塊世代は良くも悪くも仕事人間であり、リタイアというゴール達成後は仕事から家庭や趣味にリセットして「余生」を送る。今はまだ現役のHanao世代は、仕事の占める割合は大きいものの家庭や自分の趣味もそれなりに大切にしてきたので、リタイア後も継続できるものは継続して「生涯現役」を目指す。
世代混合グループから戻ってきたHanao世代に、仕事で達成感を味わい年金も比較的恵まれている上世代をうらやましいかどうか尋ねたところ、「うらやましくない」との答え。自分たちは仕事一筋ではなく、自分の人生のプライオリティを自身で決め、現役時代からプライベートも充実させるのが当然で、それゆえ上世代のようにリタイア前に慌てて家庭での自らの居場所や趣味探しをする必要がない。時代の変化に揉まれた分、適応能力や多面性が磨かれたとも自覚しており、自己肯定感が強いのだ。またアナログからデジタルへのシフトを体験した結果どちらの良さも知っている「1/2世代」、良い時代を味わった最後の世代であり、いろいろな変化を見られて多くの経験ができた「いいとこどり世代」と自分たちを規定。上の世代とは「全く違う」ことにプライドを持っている様子だ。
図1:その都度ゴールをクリアすることでサバイバルしたHanao世代サバイバルしたHanao世代
図2:リタイアもHanao世代にとっては、人生の一つの通過点人生は一つの通過点
■生活資金・教育資金調達担当からそろそろ自分消費へ
想定以上に自己肯定感の強いHanao世代だが、家庭内では実際どういう存在なのだろうか。家庭内には消費意欲旺盛な妻、Hanakoがいる(この世代の夫婦年齢差は2歳前後なので同世代間で結婚している可能性が高い)。そして妻にとって自分の子育ての「成果物」である子どもがいる。その家族に、生活資金や教育資金を供給するのが自分の役割と、夫であり父であるHanaoは認識している。ただし上の世代のような「男性は大黒柱、女性は主婦」という相互依存感覚は薄く、「男性は生活資金調達担当、女性は家事育児担当」という役割分担意識が強い。妻とは基本対等であり妻の就業率も上の世代に比べると高いので、夫の家事育児参加意識はそれなりに高いものの実際は仕事で忙しくままならず、子どもは妻の側につきがちだ。そして家庭内に供給したお金の使い道を決めるのに主導的な役割を果すのも、今は妻というケースが圧倒的だ。
彼らに「関心の高い消費領域は」と尋ねた時の「何を聞かれているのかよくわからない」といった反応は印象的だった。同じ質問を妻のHanako世代にした時は、あんなに話が盛り上がったのに…。住居や子どもの教育など大きな支出はもちろん夫婦で話し合って決めるものの、日常的な消費は妻の裁量権が大きく、夫の消費意欲は低めだ。「最近買ったお気に入りのもの」を尋ねても、答えが即座に思い浮かばない様子だった(実際自分の趣味周りのものを、ちょこちょこと買ってはいるが)。
逆に、彼らの調達力や投資意欲が発揮されるのが、子どもの教育資金だ。子どもに積極投資した人にその意図を聞くと、今後ますます先行きのわからない変化の激しい社会をサバイブするためには、知識知恵や能力を身につけることが必要だからとのこと。子どもの留学や希望の学校への進学を実現させるために、車を売ったり自分の趣味の頻度を減らしたり、とかなり我慢のお父さんである。ただしサバイバル能力を与えた代わりに、財産は残さない、財産があってもリタイア後の生活資金として夫婦二人で使うという考え方が支配的だ。子どもの学校卒業を機に、父であるHanaoも教育資金調達担当を卒業、そろそろ自分のための消費に向かいそうである。子どもに住宅という資産や貯蓄などの財産を残したい、自分のために使うよりも子どもや孫を経済面で支えたいキネマ・団塊世代とは、大きく異なる。
■シニアライフへ向けて、楽観的かつ楽天的な将来展望
さて、2020 年にはHanao世代の先頭がいよいよ60 歳というシニアエイジに突入するが、どんなリタイアライフが想定されるのだろうか。かつて20 代のころ「新人類」と呼ばれ、「今までの常識が全く通じない新社会人」として職場の上司を驚かせた彼らだが、シニアライフにおいてもそのまま「シニア新人類」になりそうだ。
シニアライフや超高齢社会には、親の介護、自身の健康、年金など経済状況の悪化、仕事がない中での社会的孤立、などなど不安は尽きない。しかし、そういった不安要素をどう乗り切るのかについて、Hanao世代はなんとも楽観的・楽天的に「なんとかなる」というスタンスだ。その理由としては、今まで困難な状況に直面しても「なんとかなってきた」経験からこれからも「なんとかなる」と、漠然としたポジティブさと自信を持っているのである。もちろん上の世代ほど年金の支給がアテにならない状況下きちんと将来設計している人もいるが、どちらかと言えば「なんとかなる」感の方が支配的である。
そもそも上の世代が「公/ 私」で人生を構成してきたのに対して、Hanao世代の人生構成要素は「公/家族/自分」だ(図3)。キネマ・団塊世代は「私」の中に「家族と自分」が両方含まれるが、Hanao世代は「家族」と「自分」が別々に存在。もともと「自分」軸が強いのは、妻であるHanako世代と共通の特徴だ。今後は、もし定年延長できるものなら「公(仕事)」にほどほど関わりつつも、「自分」の趣味や、今まで仕事で忙しくて実現できなかったこと、例えば海外や住みたい場所への移住、新しいコミュニティづくりに邁進しそうである。その際に妻が同行・同調するかどうかは微妙なところ。仲の良さや距離感にもよるが、妻もまた「自分が一人の女性として輝きたい」世代なので、別々の時間を過ごすことも考えられる。
かつての「新人類」は、「オタク世代」「マニュアル世代」とも呼ばれた。シニアになっても自分の趣味領域すなわちオタク分野には、迷わず資金を投入するであろう。例えば海外駐在のころから世界各地の絵を描くことが趣味だった人は、これからはわざわざそのために海外へ出かけ、いい画材や道具も買いそろえて取り組みそうだ。家族のために自分の欲しい車を諦めていた人は、最後の自分の車、自分の趣味を反映した車を買うかもしれない。またかつて雑誌などをお手本にデートプランを練ったマニュアル世代としては、今後も何らかのハウツー情報や教科書が欲しい。情報収集や検索が大好きな世代ゆえ、逆に言えばネット経由も含め何らかの情報を提供することで行動意欲や購買動機を高めることができそうだ。今のシニア像とは全く異なる次世代の「シニア新人類」の登場にあたり、Hanao世代を理解すること、そして対応策を講じることで、新たなビジネスチャンスが生まれそうである。
図3:Hanao世代は「 公/家族/自分」の3軸で人生を形成3軸で人生を形成
(図1〜3:伊藤忠ファッションシステム(株)作成)