ベトナムとの繊維産業協力事業から見るハノイのファッション産業 ファッション成長期待市場『 ハノイ』

■ベトナムファッション産業に日本の知見を提供

経済産業省は、平成30 年度経済連携協定に基づく産業協力事業として、ベトナムヘ日本の繊維業界専門家を派遣し、ベトナム国内のアパレル企業向けにファッションビジネス(以下、FB)に関する包括的なセミナーを開催している。この事業は、ベトナムの繊維産業に対し、日本のFBの先進的な知見を提供することでベトナムのファッション産業の効率化、高付加価値化に貢献し、双国の互恵的関係強化を目的とする。

本事業を管轄する経済産業省製造産業局生活製品課は、「ベトナムは、繊維製品生産拠点として、日本企業のグローバルサプライチェーンにおける重要性を増しており、TPPなどを踏まえた協定域内の第三国市場開拓に向けて、両国サプライチェーンにおける製品競争力の強化が求められる」としており、ファッション産業に関する包括的・体系的な研修を集中的に実施することで、ベトナムのファッション産業の効率化、高付加価値化に貢献し、これまでの主要機能であった請け負い加工に加え、オリジナル企画の商品展開を実現できる能力・機能を提供することを目指している。

■生産地から消費地へ、ベトナム小売市場の潜在成長力

ベトナム繊維産業の日本向け輸出高は、2016 年比で6.1%増と拡大した。国全体を見ると、2018年のGDP成長率は約7%増となる。

そうした中、経済発展による中間所得層の増加などを背景に、消費地としてのベトナムに注目が集まっている。では、ベトナムの首都ハノイのファッション市場の特徴はどのようなものだろうか。

テーマ1: ハノイ女子はコンサバSPAが好き
ハノイではさまざまな商業施設の開発が進められており、国内ディベロッパーが展開する「ビンコム・センター(VINCOMCENTER)」は、平日でも多くの人々が訪れ、中でも「ZARA」の大規模ショップには、女性を中心に多くの客を集め、活気にあふれている。人気のテイストは「コンサバ」。ベトナム人の真面目な性格や首都ハノイの落ち着きのある風土を反映してか、消費者は控えめなファッションを好む傾向が強いようだ。実際、今回のセミナーに参加したアパレル企業の企画関係者のスタイルもコンサバティブなものが多く、その理由を尋ねると「これが一般的なファッションであると認識している」とのこと。フランス統治時代の面影が残るハノイでは、ファッションでもフランス風コンサバがベースにあるようで、コンサバ系を得意とする日本のファッションを受け入れる土壌があるといえるかもしれない。

もう一つの特徴が、欧米のハイブランドへの関心が薄い一方で、世界的なSPAは人気・知名度ともに高いことである。ユニクロは2019 年秋に、ホーチミンにベトナム1 号店出店を予定しているが、ハノイにおいてもユニクロの認知度は高く進出を期待する声も多い。市内には並行輸入品を扱うお店もあるが、現地アパレル企業関係者は、「ベトナムで生産したユニクロを、EC経由で日本から倍の価格で購入するファンもいる」と、苦笑いする。

テーマ2: 自国ファッション産業創出への高い興味・関心と意欲
今回のセミナー参加者の多くは、ベトナムで独自のアパレルブランドづくりに着手している先進的な繊維企業のデザイナーや企画担当者である。

セミナーの運営協力をしてくれたVITAS(Vietnam Textile and GarmentAssociation)の担当者によれば、彼らの目下の悩みは、マーケティングとマーチャンダイジング(MD)のノウハウ不足とのこと。ハノイ市内には、自国のアパレルブランドを冠した商品も多く、ハノイ旧市街中心部にビル1 棟のショップを持ち、キャラクターグッズなども展開するベトナムのSPA「カニファ(CANIFA)」や日本でも展開できそうな巧みなビジュアルマーチャンダイジング(VMD)で見せる「リベ(LIBE)」などは、MDの考え方が採り入れられ、組織的なFBノウハウにより運営されていると感じる。しかし大半のブランドは、縫製工場で無造作に買い付けされたもの、もしくは自前の縫製工場で作ったものを無秩序に並べているといった、黎明期のSPAを思わせるようなものである。価格帯やトレンド品と定番品の比率などもアンバランスで、MDの考え方がまだアパレル企業に浸透していない様子がうかがえる。

セミナー参加者で、ハノイで開催されるファッションウィークの運営なども手がけるファン・セン・ナ氏によると、「アパレル企業というより、デザイナーが個人の趣味でものづくりをしているところと、縫製の請負に徹して大量生産しているところに二極化している。彼らは“ 一般論的マーケティングの応用” としてMDを捉えている段階であり、ファッション独自のマーケティングノウハウの必要性には、ようやく気づき始めたところだ」という。セミナーでもFBに対する関心が強いにもかかわらず、MDやPOSなどの基本的概念やツールについて把握していない参加者が多かった。とはいえ、将来有望な自国の市場に対して、今後、世界標準のシステムを実装して、オリジナルのファッション・ブランドを具体化しようとする意欲が非常に高いのは確かである。

■日本企業はこの超有望市場でどのように戦うか

ベトナムの国土は南北に長く、北部に位置するハノイは大陸からの寒気の影響もあって11 月~ 3 月は最高気温が20 度を下回る日も多い。そのため、ダウンジャケットやコートなど重衣料の需要も高いなど、ハノイはテイスト・気候・市場の成長性などの点で日本のファッション企業と親和性が高く魅力的な市場であるといえそうだ。

日本企業が出店する場合、認知度によっては商業施設などのパートナーはすぐに見つかることだろう。ただし、先に触れたように、ハノイのファッション産業は始まったばかりで、発展途上の段階にある。

現地で本セミナーの運営を企画し、日本でMBA取得経験もある株式会社ACE代表取締役のグェン・ズィ・トゥアン氏は、「衣食住、すべての分野にわたるライフスタイルとして提案することが重要。ベトナム人は堅実な気質で、自分の生活に関係ないと考えるものには一切関心を持たない。欧米のハイブランドが浸透していない理由もここにあり、自身の身の丈に合わない別の世界の存在と考えているのではないか」と語る。つまり、いかに“自分のためのファッションだ”と感じさせるかが鍵であり、「その意味で、日本のデザインやセンスはより身近で、それを着ることで今の生活がどれだけ素敵で快適になるかをわかりやすく提案することができるはず」と、グエン氏は指摘する。

筆者も今回、現地市場を視察する中で、日本のファッションを軸とするライフスタイル提案はハノイの生活者に共感や憧れを持って受け入れられやすいと感じた。黎明期のハノイのファッション市場を開拓するのは、簡単なことではないだろう。しかしその先には日本のファッション・ブランドを待望する巨大な成長市場が存在しているのではないだろうか。

ベトナムのファッションブランド
左.ハノイ旧市街にあるVINCOM CENTERのエントランス、
右.ベトナムのファッションブランド「LIBE」。洗練されたVMDで若者に人気

ハノイ新市街のLOTTE CENTER HANOIの内観
左.ハノイ新市街のLOTTE CENTER HANOIの内観。欧米化粧品ブランドが並ぶ
右.セミナーには、現地のファッションブランドの企画担当者などが一堂に会した

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