1 2018年以降の暮らしの方向性
小原直花:2018年は、2020年まであと2年ということで2020年代に向けてのカウントダウンが始まる年だと思っております。今回は様々な分野で活躍されている有識者へのヒアリング結果と、昨年9月に21歳~71歳までの男女合わせて1,800サンプルの生活者にウェブ調査を実施した結果を合わせて導いたキーワードをお伝えしていきたいと思います。
まず、20世紀的社会構造の中で最大化追求に価値のあった時代から、最適化追求の21世紀的社会構造へと徐々に変化してきており、2020年にはそれが確実に移行すると捉えています。
特に推進要因として中心層の世代交代が行われ、ポストバブル世代(45歳以下)が中心になっていく。中でも、今の高校生はSNSに対してのスキルが非常に高く、SNSとの距離感をうまくとりながらデジタルを使いこなしている人たち、彼らもあと2年もすれば20代に入るので、ますます中心層の価値観が変化していきます。ただ、人口構成上はプレバブル世代が多いため、ある意味どこかで矛盾みたいなものを抱えながら進んでいくことになるでしょう。
生活者の価値観の変化を見ると「個人の多様化」から「個人の中の多様化」がますます進みます。その「個人の中の多様化」としては、「モード」の違いによる消費のあり方をきちんと押さえておく必要があると考えています。一人の人の中での、消費に向かう「モード」は大きく分けると4つ、「オタク」、「ソーシャル」、「トレース」、「ノマド」があり、その割合は人によって少しずつ違います。「オタク」は文字通りオタク的に、自己中なところも含めてどんどん深掘りするような消費、「ソーシャル」はプロセスにどう関わるか、また人とのつながりなどにウエイトを置く消費、「トレース」はインスタ売れが代表的ですが、誰かに乗っかっておこうという軽い消費。それは同じ帰属コミュニティの中で共感し合えれば良いというスタンスになります。「ノマド」はシェアやレンタルなど所有しなくても、その気分や機能を自分の中に取り入れる消費の仕方です。
消費の動きとしては、「所有」から、「活用・参加・実感・共感」に移行していますが、モノ・コト・サービスの取捨選択だけではなくて、モノ・コトとの関わり方の取捨選択も多様に広がっていき、それが複層化していきます。ターゲットの捉え方も、Aさんの中のオタクモードなのか、ソーシャルモードなのか、のような考え方が必要になってくるでしょう。
そして、その変化の中で押さえておくポイントとしては、大きくは社会・企業・個人の状況があります。
社会の状況は言うまでもありませんが、少子高齢化です。人口の減少に伴って労働人口も減少しますが、これまでの成長前提の制度・仕組み自体が全くフィットしないという状況になってきます。高齢化率を見ると、2020年には28.9%の人が65歳以上になり、その時には女性の半数は50歳以上になると言われています。有識者の中で「目の前の風景がガラっと変わります」とおっしゃった方がいます。考えてみれば、電車に乗っていたらその1/3の人が65歳以上かもしれないという社会にどんどん私たちは入っていくことになります。
企業の状況としては、終身雇用制度の崩壊、世代循環の困難、全ジャンル手広く広げているところの対応がだんだん難しくなってくる。すでに社内での年代のバランスが崩れているところも多いのではないかと思いますが、継承や教育の考え方も、一期上の先輩と言いながら年齢は10歳違うような現場もあるでしょう。働き方の制度見直しは、世の中でどんどん行われていますが、ワークシェアやテレワークの中に年齢のあり方もきちんと考えていかなくては立ちいかなくなると思っています。
そして個人の状況はどうなのかと言いますと、「人生100年」と言われていますので、高齢化の基準は、今は65歳以上になっていますが、若い高齢者が増加することになり、高齢という呼び方自体も改めなければいけないのではないかと思ったりします。SNSにより「一億総タレント化」も含め、どうすれば年代を混ぜながらみんなが健全な暮らしを送っていけるのかということが大きなテーマになっていくでしょう。そのためにも個々が自立していくことが大切。選択肢が多い中で、誰かの役に立ちたいという思いとともに自己満足ではない人との関わりをどのようにつくっていくかが大きな課題になっていくと思います。
ファッションブランドの「ミナ ペルホネン」のショップがスパイラルの5階にあるのですが、とてもきれいな80代くらいの方が接客されていました。デザイナーの皆川さんが「これから様々な年齢の人たちがどのように関わり合うか」という、働き方のひとつの提案として2年ほど前に「80~100歳までの元気な人、販売員の経験は不問」と募集したところ多数の応募があり、その中の何人かが「ミナ ペルホネン」のショップで働いているということでした。70代~90代の方で、今まで販売の経験はないけれども、人生経験という意味での包容力や工夫といったアドバイスができるなど若い販売員の方とは全く違うものが得られるといったお客さんからの反応だけでなく、下世代の販売員の方からもすごく刺激になるという声が多く、相乗効果が得られているというお話をされていました。そのような幅広い年代の人たちの関わりをどうつくっていくかということは個人・企業・社会の中でこれからしっかりと考えていかなくてはならないのだと思います。
中村ゆい:2018年の位置づけですが、これから2020年代が近づいていく中で、例えば、最近話題になっているお墓の後継者問題のようにこれまでのやり方がもう通用しないということがいろいろな場面で起きていますが、それに対して頭の中で思い描くだけではなくて、現実的に動くことが切実に求められる年ではないかと捉えています。今までのように皆でひとつのゴールを共有し、そこに向かって計画に進めていくのではなく、個々がそれぞれ今起きている状況に対して、その都度最適化を見出していくような試行錯誤が求められていくでしょう。
そういった中でも変化はいくつかのレベルで起きていると見ています。
次代の変化の方向性を長期・中期・短期に分けてキーワード化すると、まず長期的なベクトルは「日常3.0」。現在から2025年ごろまでの世の中のムードは、環境変化とともに時代は動いていきますが、確かに自分自身が実感を持てる・納得が出来るというような暮らしでも手の届く範囲の質を高めることに意識を向けようという動きがしばらく続いていくでしょう。弊社では「日常志向」と呼んでいますが、そのあり方がバージョンアップしていくような流れが続いていくと思っています。
この長期的な流れを前提とした上で、今年みなさんに中期的な時代のベクトルとしてお届けする新しいキーワードが「編緩(へんかん)する」です。現在から2020年のオリンピックが開催されるぐらいまでの期間で、これまでの成長社会がつくってきたやり方がフィットせず、ではどうやったらいいのだろうと、今までのモノ・コトの関わり方やプロセスを見直して組み替えたり、つなぎ変えたりということがより活発に、かつ自覚的に生じると見ています。今よりもさらに柔軟に組み換えや繋ぎ変えをやっていく臨機応変な感覚を込めて「編み直し」と言っていますが、「変換」という言葉に「編む」と「緩める」という字を当てています。漢字の「緩」を使っているのは、これまでは固まりとして硬く捉えていたものを柔らかくゆとりを持って捉え直すという気分を込めています。
こういう意識の捉え方と連動しているのが、今現在の消費の動きを捉えているキーワードである「かろや化」です。時代の変化を促進・推進していく要因として情報環境の変化やデジタル化などの技術進化があげられますが、モノ・コトの変化のスピードが早くなる中で、暮らしをそのスピード感や変化の中で心地よくフィットさせていくためにはどうしたらいいのかが目下の生活課題となっていると見ています。LINE下世代(仮)の調査をした際にまさにそう実感しましたが、スマホのデータ容量を意識するように、自分の時間や空間のキャパを常に意識し、それをいっぱいに満たすのではなくて、必ずどこかにゆとりや余白を持たせることで常に変化に対応していくような、「かろやかさ」を追求する動きが起きています。
2.生活者の気分
小原直花:伊藤忠ファッションシステムでは2004年から「生活者の気分」リサーチを始めていますが、これだけ消費行動なり生活行動自体が複層化していく中では時代の方向性を捉える視点として気分はますます重要になっていると改めて思っています。2018年の生活者の気分的には、「これまで得てきた安定感を土台にしながら、自分らしさを外に出していく」年になると思われます。
その裏付けのデータをご覧いただきたいと思います。こちらは2017年9月にウェブ調査を行った結果です。
「2017年に感じた気分」の1位が「楽しい」、2位が「のんびり・ゆったり」。ブルーで書いてあるのはネガティブ気分です。3位、4位、7位、8位にネガティブ気分が入っていますが、3位の「不安な・心配な」は去年の2位から3位に下がっており、8位の「不安定な・落ち着かない」も順位を下げています。昨年あたりから「のんびり・ゆったり」が生活者の中ではキーワードになっているのですが、2位の「のんびり・ゆったり」も順位を上げてきており、自分のペースを整えることに積極的であると思っています。5位の「穏やかな・安らかな」も順位を上げています。ポジティブ気分の中でも「うきうき・わくわく」「刺激的」といった高揚感などではなく、心の平穏の実感が高まった年と捉えています。
その中で最も感じた気分は何なのかを1つだけ絞ってもらうと、残念ながら1位は「不安な・心配な」、2位に「あわただしい・せわしない」といったネガティブ気分が占めてしまいます。このネガティブ気分の数値は男性よりも女性の方が高いのですが、これはやはり社会の中にどんどん女性が進出していき、共働き夫婦も増える中で、ままならないことに直面しがちなのは女性、毎日の中であわただしさを感じる率も男性よりも女性の方が高いのではないかと改めて感じています。
気分と色の関係を見ますと、ペールグリーン、ペールブルー、ペールピンクは3位の「のんびり・ゆったり」と4位の「穏やかな・安らかな」という気分ワードを表す色になっています。
特にペールグリーンは「のんびり・ゆったり」「穏やかな・安らかな」両方の気分を表す色として出現しますが、「鎮静効果」や「感情のバランスを整える」ことを表す色になっており、それと「のんびり・ゆったり」「穏やかな・安らかな」がリンクしているということです。
ペールブルーは「のんびり」気分とリンクし、「無駄なく合理的」を表す色とされています。「のんびり」が3位に挙がっていますが、ペールグリーンとペールブルー双方の兼ね合いから、ある程度羽目を外さない・外しすぎないような安定感を築いてからリラックスを感じているといった解釈ができるだろうと思っています。
また、ペールピンクは「穏やかな・安らかな」を表す色として出現。愛情の象徴と言われている色ですが、自分の心にゆとりがなくなったりしている中で誰かの優しさに包まれていたいといった思いがあることがこの色によって分かります。穏やかさは、周囲の力を借りながら感じる気分でもあったということが言えるでしょう。
また、2018年に増やしていきたい気分は、1位「楽しい」、2位「安定した」、3位「穏やかな・安らかな」、そして4位に「のんびり・ゆったり」が挙がっていますが、赤文字の気分ワードは昨年より順位を上げているものです。「のんびり・ゆったり」「うれしい」「やさしい」など頑張りすぎないような気分ワードが順位を上げていることが分かります。特に男女別で見た時には、男性では「自由な」の順位も上がってきています。どちらかといえば、とらわれない感覚を欲している。女性で伸びている気分は「いきいきした」。逆にトップ10には入っていない、「包まれる・守られる」の順位は下がっています。どちらかと言えば自分自身でどのようにいきいきしていくかという思いを持っている様子がうかがえます。
心の穏やかさ欲求が上位に挙がりますが、自立に向かう感覚は、ベクトルは異なりますが男女ともに見られていくのが今年なのではないかと思っています。
最も増やしたい気分のトップは「穏やかな・安らかな」になり、2位は「楽しい」、そして「安定した」「いきいきした」「前向きな」と続いていきます。ここに挙げている3つの色、ペールイエロー、オレンジ、青はそのトップ5の気分を表す色の中で多く出現したものになっています。
特にペールイエローは「穏やかな・安らかな」「安定した」を表す色としその割合が多い。「誰かと共に」ということを表す色であり、穏やかさや安定感というのは、人との関わりを持ちながら得ていきたい気分になると思います。
オレンジは「前向きな」「楽しい」「いきいきした」を表す色として出現しますが、「向上心を持って目標達成に向かう」ことを表す色なので、待っているというより自ら動く感覚が高まっていると捉えることができます。
弊社でリサーチをしてきた中で、濃い青が上位の気分を表す色として出現したことはこれまでありませんでした。この青は「前向き」気分と関連が強いのですが、「真面目」や「知的さ」を意味するだけではなくて、「今までおさえられてきたものを外に出す」という意味合いもあると言われています。そのあたりを含めて、自分らしさを意識していく気持ちが表れてきていると思っています。ただし、決して自己満足としての自分らしさではない。「誰かと共に」を表すペールイエローが上位の気分とリンクして多く出現していることから、自分を応援してくれる理解者がいる環境の中で自分を表現していくようなステップに入っていくのではないかと考えています。
3.生活者にとっての幸せ
小原直花:続きまして、今回の新春フォーラムのメインテーマである「幸せ」について生活者がどのように捉えているのかをお話したいと思います。「幸せ」は自分自身で選択・調整が可能なゆとりのある状態を差していると思っています。左のAからBに直線で矢印が進んでいるのは20世紀的な価値観で捉えられる幸せのあり方で、既存の枠組みなりステップをいかに順調に踏めるかということが幸せを解く道筋になっていたのではないでしょうか。しかしこれからは、より個々も多様化をしていく中で、右のように、ある時はゆるんでいるようなカーブを描くこともあるかもしれないし、またある時は直線かもしれないというように、状況に合わせて臨機応変に調整可能な状態であることが重要なテーマ。それは日常にフォーカスすればするほど自分自身の目の前で変化していくこと、例えば、働き方もそうですが、育児や介護など自分が関わっている家族の、その先にも様々な変化がどんどん起こっていく中で、生活者は都度優先順位も変えていかなければいけないけれど、ぎちぎちの状態では、その変化になかなか対応できません。試行錯誤できるゆとりを自分の中に持っていられることが今は幸せな状態と捉えられているのではないでしょうか。
では、幸せの要素として今後必要になってくるものはどのようなものが挙がってくるのかをご覧ください。こちらのデータは「幸せの要素として今持っているものは何ですか」と尋ねつつ、持っている人には「これからも必要なものは何ですか」と続けて尋ね、持っていない人には「これから欲しい・必要だと思うものは何ですか」と尋ねた結果を合算した数値になっています。1位は「一人の時間」、2位は「家族との時間」です。先ほどどれだけゆとりがあるかというお話をしましたが、調整できる・余白が持ちやすいのは一人の時間であり、それがどれだけ持てているかということが大切になっていると言えるのではないでしょうか。
他にも、注目したいことがあと2つあります。一つは8位に「持ち家」、4位に「居心地良い住空間」が挙がっていること。住まいの考え方に関しても今は所有にとどまらず、それをどう活用し、自分にフィットした形に出来るかということに関心が向いていることが「持ち家」より上位に、「居心地良い住空間」が挙がる背景なのではないでしょうか。
そして、もう一つは9位「生活に必要なスキル」。これからますますデジタルをいかに駆使するかという側面もありますが、今日もヒカリエでハンドメイドマーケットが行われていましたが、自分で手作りする領域もDIYブームも含めて広がりつつあります。ただ、決して100%自分でモノがつくれるわけではないので、自分がどのあたりまで出来るのか見定めることも含めて、こういったことは誰に頼めば良いのか、誰に聞けば教えてもらえるのかなど、選択肢をどれだけ広く持てるかが重要。それが「生活に必要なスキル」が上位に挙がった背景にはあるのではないかと考えています。より自分の暮らしの最適化を図るための選択肢を広げていく。それによってより暮らしが豊か=幸せになっていくようなイメージです。
続いては、幸せな状態を構成するものは何なのかというデータです。こちらは「幸せとはどのような状態を指しますか」という設問に対し自由回答いただき、それぞれの文章に出現した単語を多い順に並べたものです。1位は「健康」、2位は「家族」です。先ほども家族との時間が必要なものとして挙がりましたが、この2つは確実に要になっていくものだと改めて思います。そして4位に「安定」があります。様々なコメントの中に安定が差し挟まれていましたが、健康、家族というのが安定している、良好な関わり方が重要という、とてもシンプルな状態。ただ、ワードとしてはシンプルですが、なかなか得にくいものでもあると思います。このシンプルな当たり前のものにどのように注力をしていくかということと、それが安定していることで、次のステップとして楽しい気分を増やしていく行動に移れるなど、先ほどの自己表現をどうやって行っていくかというステップに入っていくことができるのだと思います。
心の支えとなる「家族」が要になると書きましたが、リクルートブライダル総研の金井良子さんにも今の若者の結婚観について話を伺いましたら、「SNSでつながっているという状態が当たり前の中で育っているので、結婚や家族も身近な頼りになるコミュニティのひとつと捉えている」と話されていました。それによって安心感を得るひとつの手段になっているということです。
2位の「家族」は、定性的なヒアリングでも20代・30代、シングル・既婚問わず、ワードとしては結構出現していて、その時間をどうつくるかといったお話しが多く挙がります。三世代旅行も微増ではありますが、年々増えているとJTB総合研究所の早野陽子さんのお話にもありました。三世代というのは老若男女が混ざっている状態なので計画自体は決め過ぎないというのが大きなテーマ。その日の体調や誰かの機嫌みたいなことで調整が必要にもなるので、その余白をどうつくるかが旅行のプランの中にも必要になるとのことでした。
いずれにしても「家族」を要に置いた時に、心の余裕や時間、空間の余裕がどうしても必要であり、それが今の幸せな状態をつくるためには確実に必要になっているということなのではないでしょうか。
4.アプローチの方向性
中村ゆい:先ほど2021年ぐらいまでの方向性として「編緩する」というキーワードを掲げさせていただきましたが、それを具体的にどうやって実践していくのかという時のポイントをお話したいと思います。
まず前提となる企業や生活者の姿勢があると考えています。企業に関して言いますと、社会がポジティブに言えば成熟、ネガティブに言うと縮小していくような状況に対応していかなければならない時に求められることが、「ポジティブに楽しく縮む」こと。「縮む」は規模を縮小してそのまましぼんでいくのではなく、伸ばす余地のあるところは伸ばすような形で整理していく、無駄なものをそぎ落としていくような伸縮感のある縮み方というイメージです。また、生活者にとっては変化の中で生活をいかに充実・満足していくか、今の自分の状況で、今をどうやって充実させるかに集中していくことが基本になってきます。
そういったことが基本的な姿勢となって「編緩(へんかん)」を実際にやっていくためのポイントとして3つ考えています。
一つ目は「ネガティブをポジティブに転換する」。これまでの成長前提の価値観だと高齢化が進む、所得がじわじわと減少していくのはネガティブで良くないことだと捉えられますが、それをポジティブな捉え方で発想転換していきます。例えば、家にしても壊れていく、古くなっていくことが今までの新しいものが前提となるものではあると思うのですが、実際にプロセスに関わりながら家をつくっていくことになると個々の状況や捉え方がありますので、必ずしもひとつの価値観でいい・悪いが判断出来なくなります。一つの正解に当てはめて良いか悪いかを判断するのではないということが「ネガティブをポジティブに転換する」のもうひとつの背景にある発想です。
二つ目は「かたまりを解き要素分解する」。今までの既存のカテゴリーやジャンルをパッケージ化してかたまりで捉えていたものを、もう一回これはどういうことなんだろうと一個一個要素分解して、現状にかなうように再編集したり、構成し直すという感覚が求められてくると思います。生活者はネットでいろいろ調べられるので、例えばDIYも自分で好きにカスタマイズしたり、どうやってこれをやるんだろうということもその都度調べて自分に合わせていく感覚が浸透しています。無印良品がこれだけみんなの生活に浸透しているのも商品全てがユニット・パーツ化していて、どういう状況にも合わせて変えられるからです。むしろ、そういう感覚がないものは窮屈に思えてくるという状況が起きてくると思っています。
三つ目は「カテゴリに閉じずネットワークに開く」。これからの企業の姿勢として、現状を分析してこうですというよりも、これから起こっていく新しい状況に対して解決法や提案をしていかなければならず、常に問題提起をしていく必要があると思っています。常に他のサービスやジャンルやモノ・コトと連携できるような余地や姿勢を持ち、全体として世の中にムーブメントを起こしていくという発想が必要なのではないかと捉えています。そういったことを実際に今の時点で具現化しているような事例をいくつかピックアップしていますので、最後にそのご紹介をしていきます。
1つ目は住環境に関連することですが、あえて最終形にせず、ユーザーがカスタマイズできるような提案をするようなモノ・コトがあります。
ここでピックアップするのはKOKUYOの図工椅子です。図工室で見かける椅子ですが、それを仕上げずに、いろいろな形で塗装したりして自分なりに完成品をつくっていくものです。
また、西荻北ホープハウスは老朽化した物件を自分でDIY出来るということで再提案しています。空き家の問題がありますが、自分でDIYをして家や住空間をカスタマイズしていく。住むことにそういう形で関わっていくことは今後広がっていくのではないでしょうか。
次に、ライフステージに関わる消費や動きとして、。冒頭でお墓問題を申し上げましたが、終活の場を提供しているブルーオーシャンカフェをご紹介したいと思います。こちらは葬儀や埋葬に関するセミナーやワークショップ、ライフデザインを考える機会を提供しており、活動をしています。今までのような葬儀の代わりに、個人がいろいろなコミュニティに所属している時代だからこそコミュニティごとのお別れ会が必要だという提案もしており、今までの慣例・慣習が変わっていく中で生まれている新しいニーズに対応していると言えるでしょう。
去年の終わりごろ、有識者の方に会うと「TOKYO ART BOOK FAIR(東京アートブックフェア)」の話をよく耳にしましたが、すごい盛り上がりだったようですね。そこではZINE(ジン)という個人出版の小冊子が販売されているのですが、ネットで自分をインスタントに軽く自己呈示出来るような状況になっているからこそ、ZINEのように自分自身を分かる人だけわかるような、深いところに届けるような表現がささっているとも言えます自分自身で実感することが重視されていることを示す動きとも言えるでしょう。
美容・健康に関しては、年々生活者のリテラシーも上がり、ニーズも細かくなっているため、それぞれの悩みやニーズに対してきめ細やかに提案するような動きが起きています。例えば、単に鍛えるだけではなくて疲労回復や心のメンテナンスにも関わるようなサービスをするコンディショニングジム、現在アメリカで展開しているFUNCITON OF BEAUTYのように、髪質を診断し、その人の持っている悩みに対して必要な成分や香り、さらに好きなパッケージの色などをカスタマイズできるヘアケア剤が登場しています。以上のように、いままでの状態を一度要素分解し、個人に合うように柔軟に組み変えていくようなモノ・コト・サービス、また、そのことによって変化に対応していくための余地・余白を作ることが、これからのキーワードになっています。
ご清聴ありがとうございました。