2020年ifs新春フォーラムトークセッション: <PART1>これからの10年で変化することとその背景

テーマ: 「10年後の人々の暮らしとそれを踏まえた企業の動き」
 ゲスト: 株式会社スノーピークビジネスソリューションズ エヴァンジェリスト/ NPO法人「ハマのトウダイ」共同代表 岡部 祥司氏 大和ハウス工業株式会社マンション事業推進部 企画建設推進部 次長/ 設計デザイン室 室長 瀬口 和彦氏  ifs マーケティング開発グループ 太田 敏宏 コーディネーター: ifs ナレッジ室 小原 直花

小原:ifsでは「生活者の気分」のリサーチを25年以上続けており、21世紀になってすでに20年経ちますが、昨年頃から旧価値観と新価値観のズレが顕著になり始めています。21世紀化が進んでいる領域は生活者の気分、ライフスタイルのあり方、志向性の変化です。しかし、それを支えている個人と社会との接点となる組織や雇用のあり方、価値交換のあり方はまだまだ20世紀的な成長社会で作られたものが土台になっているというあたりで溝が広がっていることが考えられます。
これからの10年で何をするかにより、企業や職種自体の存在がもしかしてなくなってしまうかもしれない。だったらこれから何をすべきなのか。今回は、多角的な事業やプロジェクトを仕掛けているゲストの具体的なお話を通して、何かヒントをつかんでいただきたいと思っております。

岡部:現在、4社に属しております。NPO法人ハマのトウダイは、大手とNPOと地元をリアルにつなげて公共空間を活用していきたいと、数年前に横浜で始めました。商店街でスリッパ卓球をしたり、公園でキャンプをしてみたり。これは違法ではなくて合法です。小学校でパークキャラバンとしてやってみたり、道路空間でスポーツのアクティビティをやってみたり。これも社会実証実験です。動物園で映画を見たり、キャンプして泊まったり。
スノーピークビジネスソリューションズは3年前にスノーピークの子会社として立ち上げた時から関わっており、オフィスの中だけではなく、ビルの屋上や品川シーズンテラスにレンタルスペースを作って働く場所を提供しています。
ONE TABLEでは、防災備蓄品を新しく作っています。ゼリーはだいたい1年保存ですが、お年寄りや子どもたちなど乾パンが食べられない人に向けて、乾パンに成り代わるものとして5年保存でき、味のバリエーションもある「LIFE JELLY」を開発しました。
Dサービス(SDクリエイション)はいわゆる自動販売機を活用した新しい事業の立ち上げてやっています。自販機をインターフェースと捉えると体験を売れたり、物が売れたりするのではないかということでいろいろ作られています。具体的にはベイスターズのグッズを街中で売ってみたり、ジャイアンツのグッズを水道橋で売ってみたり。次のステージは原辰徳とグータッチ出来る券が当たるなど、ジャイアンツが提供出来る提供価値をそこで展開出来たら面白い。物販で言うとティファニーがiPhoneを作られたり、いろいろなものがあるので、省スペースに壁面と自販機を組み合わせるとストリートが出来たり、デパートが出来たりするので、商業施設のデッドスペースなどいろいろな街中の空いているスペースに可能性があるのではないかということでこの事業化をしています。
このように、仕事では、既成概念にとらわれることをどう変えるかということをずっとテーマにしています。

瀬口:現在私は、大和ハウスの分譲マンションの部隊の中で商品企画をしており、その中でもプランニングやデザインを中心に携わっています。大和ハウスは「ハウスメーカーですよね」とよく言われますが、人口が減っているので、実際やっているものはそれ以外のところです。例えば、流通店舗や物流施設、工業団地、海外を主流とし、他には珍しいところでは筑波大学の山海教授が設立した会社「サイバーダイン」のロボットを我々が販売する事業、それからスポーツクラブのNASも我々のグループですし、ファイナンスや農業の工業化もしています。
社会では「大和ハウスは大阪の会社で商売っ気が強くて嫌だよね」などいろいろ言われていますが、私自身は、「事業は儲かるからではなくて、世の中の役に立つからやる」と言っていた創業者(石橋信夫)を尊敬しており、弊社の社員の根底にはこの精神があります。
現会長の樋口は、「中興の祖」と呼ばれているのですが、我々の事業は何をやるかという将来像を示す上で、「アスフカケツノ」という言葉を作りました。アは安全・安心、スはスピード、フは福祉、カは環境、ケは健康、ツは通信、ノは農業。こういったところを我々の事業の根幹として今後やっていく方針です。今グループ全体で4兆円ぐらいの売り上げですが、それを2055年の創業100周年には10兆円にしようということで、動いています。「アスフカケツノ」は随分前から言われていますが、最近ですとSDGsという具体的な目標が見えてきています。これは我々の「アスフカケツノ」に似ているところもあり、親和性も高いので、SDGsに問いながら、我々はこれから事業を伸ばしていきます。
他には、実は電気もつくっています。これは電気をどこかから買うのではなくて、自分たちで持っている電気です。太陽光発電、風力発電、水力発電を持っており、ここで電気をつくって、我々が電気を売っているという事業をしています。ただ売るだけではなくて、今我々は国際イニシアチブ「RE100」に参加して、既に工事現場の方には再生可能エネルギーを売って使っています。さらにまちづくりの時に電気にトラッキングして(電気にタグをつける)、この街で使っている電気は再生可能由来のエネルギーということを証明して、まちづくりをしています。それが船橋塚田プロジェクトです。このプロジェクトでできたマンションは既にプレミスト船橋塚田ということで販売に入っていますが、他にも賃貸マンション、アパート、戸建て、商業店舗を全部まとめてやっています。このようなSDGsに配慮したまちづくり事業を他にも展開していきたいと考えているところです。

太田:私は普段、消費財のブランディング、商業施設や小売店に対する調査、あるいはいろいろな事業開発などのお手伝いをさせていただいています。その中でここ数年は一緒に未来を考えてくれないか、この先私たちのビジネスはどうなっていくのかを一緒に研究して欲しいというようなプロジェクトが結構いろいろな形で皆さんから受託するようになりました。
この先10年が今回のテーマですので、この先10年どういったことが起きるのか、あるいはどういったことが起きそうなのかをいくつかテーマにしてまとめていますのでご紹介します。大きくあげると5つのテーマがあると思っており、①人口減少②働き方の変化③技術革新④消費マインドの変化⑤場の変化 です。

【1.人口減少】
国連が示したデータによると、2020年には1億2,600万人なのが10年後には572万人減ります。572万人減るのがどのぐらいの規模かと考えると、兵庫県が550万人ぐらいなので兵庫県が1つなくなってしまう。あるいは小さい県だと2つなくなってしまうぐらいの人口減少がこの10年で起きると言われています。さらに考えていくと、2100年には7400万人まで減ると言われていますので、かなり急激な人口減少となります。人口減少がどういうことに影響するのかと言うと当然市場は縮小しますし、GDPも下がっていく懸念があります。いろいろなものが人口減少によって枠組みを変えていかないと、あるいはいろいろなことを考えていかないと、このままの状態で成長はないということが人口減少によって起こると言われています。

【2.働き方の変化】
これは3つのキーワードを考えました。
一つ目は「足らない」。今お話したように人口が減っていきます。そうすると労働力がこの10年間で644万人不足すると言われています。この644万人を何らかの形で補わないといろいろな経済が回っていかなくなると言われています。政府では何を考えているかというと、ひとつは外国人労働者をどんどん入れていこうということで入管法を少し緩和しました。もうひとつはシニアをもっと働き口として活用していかなければいけない。今は60歳定年が当たり前になって、それを65歳まで伸ばそうという話ですが、この先70歳まで働かせて、年金は70歳以降にしかあげないという話に若干なりつつあります。それから今30代、40代のM字カーブと言われているような人たちをもう少し労働市場に集めるために、ママを市場に投入させようとする方針を打ち出し、それが女性が輝く社会みたいな話になっているところがあります。
2つ目は「要らない」という現象も起こり始めています。これは技術革新によってAIやロボティクスで工場が自動化していったり、バックヤードがいらなくなったり、自動販売機で物が潤沢に売れるようになったら販売員はいらないのではないか。「足らない」という一方で「要らない」というような、ここはもう人がいらないという職業が出てくると言われています。
3つ目は「どこでも」。今は通信環境が整えさえすれば外でも仕事が出来ますし、広場でもカフェでも仕事が出来ます。当然家でも仕事が出来るという話になるとオフィスが要らなくなると言われています。それを象徴するかのように、今オフィス市場がかなりひっ迫した状況にあってオフィスが足らないと言われていますが、今がちょうどピークで、今後は働き方改革や人口減少も含めてオフィスの空室率が上昇すると言われています。住宅含めてオフィスももしかしたら斜陽産業になってしまうのかもしれません。それを考えみると「どこでも」というような働き方のキーワードが出てくるということです。

【3.技術革新】
AI、ロボティクス、5G、ナノテクノロジー、VR/AR、それから自動車産業ではCASEと言われていますし、モビリティを含めてMaaSになっていくという話もありますし、さらにはAIやいろいろなものを組み合わせるともっとパーソナライゼーションが出来るのではないかという話やオーダーメイド。これはメディカルの分野でもそういったことを含めて、いろいろな形でパーソナライゼーションが進むと言われてきています。そういったものがベースになっていきますので提供の仕方、消費の仕方が技術革新によってどんどん変わっていく。それがこの10年ではないかと言われています。

【4.消費マインドの変化】
これは実際に起き始めていると考えてもいいのかもしれません。特にそれが一番早いのが、今消費が落ち込みを示しているアパレル産業という気がしています。中間価格帯が消失し始めるという言われ方をしています。今までは1億人もいるのでマーケットは潤沢、それから1億総中流みたいな常識が非常に強かったのですが、そこを支えていた中間価格帯のゾーンが消失し始めています。特に百貨店や商業施設の扱う中間価格帯の物はいらないとなってきています。ファストファッションを含めてコモディティ化がどんどん進んでいることと、コモディティ化の先には買わなくても、持たなくてもいいのではないか。サブスクリプションなどを含めてレンタルでもいいという考え方も出ていますので、ますます低価格化が進むと言われています。ただし、コモディティ化が進むことによって、同じような選択肢しかない、あるいは同じような価格帯の商品しかないと、それでは満足しきれない人たちが今度はもっと変わった物、もっと違う物、あるいは過去にあった物を探し始めてオタク化が進んでいくと考えています。また、従来からある富裕層向けの価格が高くてもいい物を持ちたいという人たちとコモディティで済ませる人たち、それからオタクの人たちの3極に分かれると考えられます。これはファッションだけではなくて、いろいろな分野で進む現象であると予測しています。

【5.場の変化】
商業で象徴的なのが南町田グランベリーパーク。以前は南町田グランベリーモールという呼び方でした。モールを日本語に訳すと商店街。商店街だったものがリニューアルオープンしてパーク=公園と名乗るようになりました。実際に行ってみると隣の鶴間公園と一体化して、公園に遊びに行くことが来街目的となって、公園で遊んでいたらもう少し楽しいことをしたいというので物を食べたり、そこで売っている物が欲しくなったり。来街目的が買い物ではなく、遊ぶ・過ごすという感覚になっていくのではないでしょうか。
今年で考えますと、東武鉄道がスカイツリーの下に公園をテーマにした商業施設を今作っています。さらには渋谷ではが三井不動産によって、宮下公園一体化した商業施設が出来ると言われています。今後しばらくは公園化というのが商業においてトレンドになっていくのではないでしょうか。
オフィスに関してはどこでもオフィス化が進みます。今までとは働く場所が全然違ってくるのではないかと言われています。これはいろいろな商業施設の中で取り込みが開始されていますが、コワーキングスペースがどんどん増えていくと言われています。Wイノベーションも含めていろいろな人たちが交流する。社員がそこにいるのではなくて、いろいろな外部の人たちを結んで、いろいろな形でビジネスを起こしていかなければいけないという話になるとオフィスよりもコワーキングスペース的なものがどんどん増えていって、事務所スペースが減ると言われています。オフィスも場がどんどん曖昧になっていくのがひとつテーマとしてあります。
住宅では、買わなくてもいいという選択肢が前からありますが、二拠点で居住する、三拠点で居住する、あるいは定住する所は持たないで気分や季節、仕事の仕方に合わせてどんどん居住する場所を変えていくようなアドレスホッパー的な動きがどんどん出てくると言われています。それも含めて住む場所、働く場所、物を買いに行く場所、遊ぶ場所がどんどん曖昧化していく。そういったものがここ10年で起きるのではないかと言われています。

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