左)大和ハウス工業株式会社マンション事業推進部 企画建設推進部 次長/
設計デザイン室 室長 瀬口 和彦氏
右)株式会社スノーピークビジネスソリューションズ エヴァンジェリスト/
NPO法人「ハマのトウダイ」共同代表 岡部 祥司氏
小原:「働き方・暮らし方が変わる」「消費が変わる」「あらゆるものの境界線があいまいになる」という大きく3つのテーマでセッションを進めていますが、次は、2つ目のテーマ「消費が変わる」。
大和ハウスの新入社員の20代の方が「僕は家を買うつもりはありません」とおっしゃったというお話をお伺いし、衝撃を受けました。やはり所有ではなくて活用や気分や権利さえ得られればよい、というような形のものが増えていくかと思いますが、そのあたりはどう捉えていますか?
瀬口:まさに僕の部下ですが、新入社員で入ってきて「お前はどんな家が欲しい?」と聞いたら「僕は家が欲しくはありません」と言われて、「えっ」という話になって。「これは大変だ」と言って、彼の同期の営業マンを集めて「家はどんなのが欲しい?」という話をしたら「我々家はいりません」と言うわけです。あなた方は家を作って売るためにうちの会社に入ってきたのに家をいらないと言われると困るなと思って。しかし、よくよく聞くと、今売っているような家はいらないという話。将来的にどうなるか分からないけれど、自分が今すぐ結婚して3LDKにファミリーで住むという感覚はないのが分かってきたので、「あなた方にとってどんな家が必要なの?」というところから面白いものが出来るのではないかと思っています。さらに言うと、例えば、住むのに部屋は1部屋だけでいい。最低限の水まわりだけがあればいい。必要な部屋はスマホでピッピッとやると車が来てそれが部屋になったり。今日人が来るからリビングを呼びましょうと言って呼ぶと車が来て、それがリビングになったり。今日は立派な料理を作りたいのでキッチンを呼びましょう。車を呼んで、車が来て、それがキッチンになっているような。住宅と車の境界線がどんどんなくなっていくのではないでしょうか。そんなことを今考えています。
小原:スノーピークは物販の他にキャンプや教育などいろいろな広がりがある中では、消費の変わり方はどんな風に見ていますか。
岡部:変わっていると思うよりは、発信する側が何を売りたいか、なぜやっているか。そこが響くか響かないかが大きい。物自体の性能の良し悪しは最低限ありますが、僕がなぜこれを売っているのかが伝わった方が共感は生まれるので、共感を生み出すために我々は何者であるか。商社です、アウトドアメーカーですという話ではなくて、僕らで言えば“人間性を回復させること”をドメインにしていて、打ち出し方としては「人生に、野遊びを。」。ここに共感をしてくれている。ここで言っていることと言っている会社が何となくそうだよね、嘘じゃない感じが微妙に伝わってしまうのが今怖いところなのだろうという気がしています。
太田:共感が消費につながるお話がありましたが、今のお話を聞いていると、ときめく物とときめかない物があって、ときめく物は買ってもいいけれど、ときめかない物は買わなくて所有しなくていい。そんな形になっていくような気もします。
小原:大学生に話を聞いていても買わないわけではなくて、結構高い物を買っていたりもしますが、無駄な物にお金は使いたくない。その判断力がすごく働いています。よく若者は物を買わないと言われているのは全く違うと思います。もちろん安くていい物というベクトルで見ている物もありますが、質が良くて高くてもというようなことやときめきがどの領域に入るのか。その部分がオタクになっていくと思いますが、どうですか。
太田:自分のこだわりが分野や、この分野はどうしても自分の物にしたいなど、そういった物に関してはどんどん消費が盛んになっていって、そんな人が鋭角的になっていくとオタクと言われるのではないかと思っています。弊社もファションオタクのメンバーが多いという気もしますが、私はコモディティな人になっているので、そういった差はどんどん生まれていくという気はしています。
小原:生活者にいろいろな話を聞いていますと、絶対にそれぞれの人に一つや二つ、オタク的に掘り下げているものがあります。そこにはお金を使っているので、そういったところへのアプローチは先ほど岡部さんが仰っていたように、うちはどういう会社で何を届けようとしているのかが結局は感じられてしまいます。それだけ深掘りしている生活者がとても多いので、中途半端なことを提案しても箸にも棒にもかからないのがどんどん広がっていると思います。
太田:昔から振り返ってみると、日本は物のない時代から高度経済成長を経て、物をたくさん持つことが豊かで、豊かになればなるほどいい物が欲しいということで成長してきたが、ここに来て物を持つこと自体が本当に幸せなのかということを皆さん気づき始めて、自分のこだわりの物を持つことは幸せだけど、それ以外の物を買っていいのかという話になってきていると思います。それを進めてきたような人たちが今になって自分が持っているものをいろいろ手放して断捨離をしよう、メルカリにはまってどんどん売るのが楽しくなってきたというような人たちがどんどん増えてきているので、消費の仕方、物の持ち方も時代とともに変わってきているのかなという気がします。
小原:そうやってどんどん求めるものが多様になって、どんどん多様化ですとよく言われます。では、どうやってアプローチすればいいのかと言われたりもします。家も今は新築よりも中古やリノベーションなどいくつかのタイプであるというようなお話があったのですが、どんな所が人気になってきているのですか。
瀬口:住宅で言いますとマンションのことだと思いますが、4年位前から新築の取引の数と中古の取引の数が逆転していまして、中古の方の取引の数が増えています。中古を買う人は中古でいいやという考え方ではなくて、その中古をいかに自分が住みやすくするかを考えて買われるので、分譲マンションの各社も、元々参入しているリノベーションの会社に大手がどんどん参入していって、今は買取再販事業が多くなっています。その中で我々が少し失敗したところもあって、それを今度どうやっていったらいいか。お客さま一人一人にどう寄り添うかというところで、お客さまのやりたいことがどうやったら実現出来るかだと思っているので。今までのリノベーションマンションは直して、この値段で欲しい人という売り方ですが、そこをわざと未完成にしています。これはリノベーションの9(ナイン)の久田さんがやっていますが、未完成住宅があります。それは戸建でやっていましたが、それを今後マンションのリノベーションに生かしていけないかと今考えています。
小原:一方で、途中段階でもらって、こだわりたいけど具体的に自分では分からない人のコーディネートもされていると思いますが、岡部さんはそんなに服が好きではないけど、熱のある人や愛着を持っている人からのアドバイスが利くというお話があったのですが…。
岡部:僕は生活していて最近幸せだなと思うのは時計を選ばなければ、車を買おう、服を買おうなどいろいろな場面がありますが、知り合いにそれなりに詳しい人が僕のことを分かっていて「岡部さんだったらこれがいいんじゃない」と言ってくれる人がたくさんいてくれるのがとても助かっています。服もそんなに興味があるわけではないけれど、「岡部さんは人前で喋る機会が多い。でもスーツというわけにはいかないから、もうちょっとこういう感じにしたら」と言われたまま着ていたりします。僕に物欲があるというよりは、その人が好きな物に対して、僕のことも分かってくれている人に寄り添ってもらっている感はものすごい人生というか生活していて気持ち良い。飲食店も食べログでいいから行くのではなくて、あの人がいいと言っていて、これを食べろと言われて行ったら店主さんにめちゃくちゃ話しかけられて仲良くなる。その関係の方が食事はおいしかったりする。そういうことが大事だと思います。
小原:そういったところで言いますと家が最たるものですよね。
今生活者に聞いていても、自分に最適なものが何なのか。情報があればあるほど選びきれない。選びきれるかもしれないというところでアプローチをしていくのですが、また海の中に溺れる感じになってくると専門的な意見が欲しい。お二人の企業のメンバーの方たちは専門性よりも愛着ですか。
岡部:スノーピークにマーケット調査をしに行ったら情報が多いので大変だと思います。情報を取りに行く前に自分、つまり一人称、僕ってどんな人か。そこが分からない、そこに答えを持たずに選択肢が多い社会になっているのでみんな困っている。商売をする側はそれをつきに行けばいい。個人や人としては選択肢が増えていることは幸せである一方、大変であるということを踏まえて、自分が何に興味があって、どういうライフスタイルをしたいのかということが結構選べる。ここが難しいところ。そうなると承認欲求が満たされにくいのもあります。これをやっていればいいみたいな感じになりにくい。
太田:実際にそういった適切なアドバイスをくれる人や、そういったことに対して熱量がある人から買いたい。これからの商業施設はそういう人に会いに行く場所になるような気がします。単純に物を買いに行くよりも、そういう人たちとコミュニケーションをしたり、アドバイスが受けられたり。
逆に矛盾するようですが、今現場の販売力、人の力が落ちていると言われています。販売員は必ずしも給料が良くなかったりするのもあるのかもしれませんが、現場力が落ちていることも非常に課題な気がしています。
小原:そのあたりお二人はどうですか。
瀬口:特に家は新築になりますと、よく一生の買い物みたいに言われます。やはり人生のいろいろなイベントの中で大きなこと。それを営業マンにつかまってずっと説明されるのは、そこで話が合わなかったらお客さまは苦痛でしかない。そこで大和ハウスでは最近Web限定の戸建住宅商品「Lifegenic(ライフジェニック)」を発売しました。Web上でいくつかの質問に答えると、あなたのライフスタイルはこうだからこの住宅がいいですよというベースを示してくれます。その中でお客さまがWeb上でいくつか自由なことがあって、私はこうしたい、ああしたいということが出来て、最後これで買いますかという時に、契約だけはうちの社員が出て行ってやります。
構われたい人や最後の押してくれるだけでいいよという人などいろいろなお客さまがいるので、同じ接客方法やマニュアルチックなものはもうダメ。その都度、お客さまに対してどう対応出来るような仕組みを持っているかということになっていくと思っています。
太田:岡部さんは自動販売機のビジネスを始められましたが、自動販売機とリアルな店舗の関係はどういう風になっていくのですか。
岡部:例えば、化粧品の会社でニーズとして言われたのは、普通の20坪の店舗にヘビーユーザーの方が詰め替えを買いに来たが、だいたいレジが1つなので並ぶ。よくあるのがレジで「そういえば」と相談されることが結構あって並ぶとイライラして結局買わないことがあるので、既存の分かっている詰め替え用はこっちで買って下さいみたいな話はありそう。
スノーピークの販売店と僕らが今やっているのはカメラ。人の動きや会話をトレッキングしていて。「お前ら70店舗売ってこい。この仕組みで」みたいなことはもう無理なので。このエリアにはどれぐらいのどういう人たちがいるのか、どういう会話を望んでいる人が多いのかというところを見ないと、この店長が何をしていいのかが分からない。そういうのをはかりに行くのは結構テクノロジーが進化しているので出来たりしているところはあります。店舗はエリアに紐づけされるので、生活者のスタイルと所有の感じを合わせていくのは結構やっています。
小原:生活者は状況とタイミングいかんでも欲しい物が変わる。去年まではAだったけど、今はBかもしれない。そういうあたりも対応していくことが必要になってくると思います。
岡部: 例えば、ゆずというアーティストは路上で歌っていたらスターダムに上がっていく。つまり原点はここ。物販はどこから始めたか。フリーマーケットみたいな話しかない。自販機もあそこから始まるみたいなことが出来たりする。つまり物だけ用意して送ってもらえば、お金の管理と販売は全部こちらがやるのでオペレーションは全部いらない。その後、スターダムとして高島屋などのスペースを借りる話に。物販の最初。トライアルでやっていけるみたいなことは結構ニーズとしてお話をいただいています。