ファッションを再定義する:ifs fashion insight【全6回】

第1回:変化するファッションの“中身”
物理的な見た目からネット上の見た目へ、モノづくりから関わりづくりへ




ifsでは、この10年間の時代の大きな変化と、その中でのファッションの変質を捉え、ファッション視点に基づきビジネスを展開する企業として、次なる時代に向けて、ファッションの意味・役割を再定義し、新たなビジネスの視点を提案していきたいと考えている。その核となるプロジェクトとして、今年3月、トークセッションシリーズ・ifs fashion insightを始動。ここでは、セッションから得られた気付きを下に、ファッションの変化・変質を明らかにするとともに、次代のファッション×ビジネス視点について検討を重ねていく。今回は、その端初として、弊社の基本的なファッションの捉え方を提示するとともに、これまでの時代とファッションの変化を整理、そこから見えてきたファッションの変質についてお伝えする。

ファッション=自分を表現するもの

伊藤忠ファッションシステム(以下、ifs)では、ファッションというカテゴリを「服=アパレル」に限定せず、ライフスタイル全般を包括するものとして、分析者視点からは「今を生きる人々の価値観やその集合としての時代のムードを具現化するもの」であり、生活者視点からは「なりたい自分や欲しい気分を実現するために意識的に手に入れたいもの」あるいは「自分を表現するもの」と広義に捉えている。

情報・コミュニケーション環境の変化がもたらしたファッションの変質

2000年代から2010年代にかけて、成長・拡大社会から、成熟・縮小社会へと社会構造や社会環境は大きく転換を果たしてきた。大きな時代の流れの中で、人々が「ファッション」として欲望するものの対象、あるいは「自分を表現する方法」も大きく変化している。特に、その大きな推進要因となっているのが、情報・コミュニケーション環境の変化だ。スマホ、SNSの浸透に代表されるように、インターネットが日々の行動の場として浸透・拡張した結果、自己表現の場も物理的な空間からネットへと拡張、自己表現の現れとしての「見た目」も物理的な見た目からネット上への見た目へと変貌を遂げているのである。

00年代以前:ファッション=「物理的な見た目」の時代

2000年代以前を振り返ると、80年代後半のバブル期には高級ブランドで身を固めたスタイル、90年代前半のバブル崩壊後にはカジュアルなリアルクローズがトレンドとなり、90年代後半には個性的なストリート・ファッションが隆盛した。これらの時代を貫いてきたのが、「人と差別化できるようなモノを所有したい」という消費に対するモチベーションであり、「物理的な見た目=何をどのように身に付けているか」が、個々人が志向するライフスタイルや価値観を表すものと捉えられてきた。そうした、自己表現を纏って出かける先は、流行りの店やエリアなど、自分と価値観を同じくする、あるいは憧れる人々が集まる「街」であり、ストリートは自分の価値観を表現する舞台だったといえる。

10年代以降:ファッション=「ネット上の見た目」の時代

しかし、2010年代に入り、「自己表現のツール=服」という図式は徐々に崩れ始めた。SNSを介した画像をメインとするコミュニケーションが日常化し、場の限定を受けず自分を提示する場所が成立したことで、これまで物理的な見た目によって可視化されてきた価値観やライフスタイルが、いつ、どこで、誰と何をしているか、個々人の「行動」として、SNSのタイムライン上でダイレクトに可視化されるようになったためである。消費に対する関心も「モノの所有」から、「モノ・コトを通じてどんな経験が得られるか」「暮らしの中でいかに活用できるか」「経験をどんなふうに共有するか」、生活の「プロセス」や「行動」を通じた体験それ自体へとこの10年で大きく変化。人の物理的な「見た目」やそれを構成する「モノ=服」は行動の一構成要素として背景化し、「見た目」に対する意識自体も、自分が身を置いているシーンのネット上の見え方・見せ方へと拡張している。

モノづくりから、モノ・コト・ヒトとの関わり=体験づくりへ

今や生活者の関心は「どんなモノを手に入れるか」、ではなく、「日々の暮らしの中でどんな体験を得るか」にシフトしている。言い換えれば、「日常を取り巻くモノ・コト・ヒトとどのような“関わり”を切り結ぶか」が暮らしの中で重要視されているのである。送り手にとっては、まさにこの「関わり」のデザインや設計こそが今後の果たすべき役割の要かも知れない。

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