インスタ世代のSDGs観
ブランドマーケティングの仕事をしていると、よく経営者の方々から「若者たちのSDGsへの関心」について聞かれることがある。私は質問を受けるたびに、SDGsへの関心が高い世代であることを伝えるがうまく説明ができていない。SDGsという言葉の意味でさえ、若者たちにはまだ浸透していないからだ。
アメリカでは、今後の政治経済の中心世代と捉えられているジェネレーションZ(1997年から2009年までに生まれた世代)は消費の選択に際し、その送り手側の社会・環境課題への取り組み方を重要視する傾向がほかの世代より強いといわれている。総務省の人口統計によると、日本では総人口の約15%、米国では約25%を占める世代だ。
私の所属するマーケティング部門では、日本国内で1997年から2000年に生まれた世代を「インスタ世代」として定義し、その価値観や消費性向の考察を今年リリースした。彼らは現在進行形で消費の自己裁量権がはじまっている年代であり、前述の“若者たち” にあたる世代である。
私たちは先の問いに応えるために現在、研究を進めている。
17に分類されるSDGsに対し、特にインスタ世代の関心がほかの世代より顕著に高い分類が4つあることがわかってきた。それは貧困、飢餓、ジェンダー、人種差別といった、「ヒト」に関する項目に集中している。
一方で象徴する言葉の印象を尋ねると、エコ=表面的、サスティナビリティ・エシカル=具体的に何をすべきかわからない。SDGs=未来のためにすべきこととして認識するものの、個人よりも企業が取り組むべきことと捉えている割合が高い。
彼らは社会・環境課題を大切なことと捉えながら、自分の行動がSDGsに該当するのか、選択している財が経済活動のなかでどれだけのインパクトで関与しているのか判断がつきにくいようだ。
「信頼」は若者の間でも最もフェアな概念だ
一方でコロナ禍でのヒアリングでは以下の声を聞くことができた。
「今後はつくり手の気持ちや生産背景がわかるものや多少高くても長く愛用できるものを選びたい」「古着もアンティークもよいものはかっこいいし、再利用することは環境負荷を低減できる」「地元の昔からある商店街のお店は大型店よりもケアが手厚く信頼できる」。
新型コロナは、乗り越えなくてはならない社会・経済の両局面での課題を絶え間なく押しつけてくる。一方で本当に大切なことへの気づきとなっている側面もある。
「エモい」という最近の流行り言葉にあるように、心理的に心を動かされる価値がいまの時代も若者たちに響くようだ。そういう意味で送り手と生活者側の日ごろの良好な関係はこういうときこそ重要である。継続的なコミュニケーションで築き上げられる一種の「信頼関係」は、ポイント付与では形成できない最もフェアな概念かもしれない。
SDGsを推進するうえで、マイケル・E・ポーター氏によるビジネスとして社会問題を解決するCSV(Creating Shared Value)の視点は、今後も市場での理解が進み、企業の持続的な成長へとつなぐ戦略となるであろう。その際に忘れてはならないことを、若者たちや、皮肉にもコロナが教えてくれていると感じるときがある。
私にはSDGsをうまく説明することは、やはりまだできなそうだ。
ホテルからの帰路の車中で、風力発電用の風車が何百台も軒を連ねる壮大な光景が続いた。長女は母親の再生可能エネルギーの説明に興奮し急いでシャッターを押していた。