自己の内面を見つめ直す気運の高まり
“自分探し”という言葉はかなり前から使われてきたが、私はいまあらためて、この言葉が気になっている。
コロナ禍以前から、心の状態を含めた健康意識の上昇とともに、マインドフルネス、瞑想、インナービューティなどが日本でもトレンドとして浮上しはじめ、自己の内面と向き合うような気運が高まっていた。
さらに、新型コロナウイルス大流行による自粛期間中の“おうち時間”に、しばらくご無沙汰だった趣味に再びふれることで、忘れかけていた自分の側面を取り戻した人や、新たな趣味で意外な自分の一面を発見した人も少なくないはずだ。
私の場合は家族のマスクを裁縫してみたり、バナナブレッドやバスクチーズケーキなどのお菓子づくりに励んでみたりした。ほかにも読書や音楽、ゲーム、美容、あるいはキャンプなど、密を避けるためにできないことや制限がかかることも多かったなかでも、少し立ち止まって自分を見つめ直す機会にもなったのではないだろうか。
個の力が試される風の時代の到来
そんななかで、昨年末から、急に「風の時代」というワードをSNS上でよく見かけるようになった。記事なりツイートなりをよく読んでみると、風の時代への突入と、周囲の状況・環境がシンクロしているように感じられ、たいへん興味深かった。
風の時代とは、西洋占星術上の言葉である。地球から見て木星と土星が重なるグレートコンジャンクションが起こる場所が、地の星座エリアから風の星座エリアにシフトしたことにより、2020年12月22日から風の時代に突入した、ということだそう。いままでの「地の時代」は物質的なものや組織などの枠組みに価値がおかれていたが、今後約200年続く風の時代ではアイデアやクリエイティビティ、コミュニケーションなど無形物や個人・個性に価値が徐々に移っていくということらしい。
昨今のシェアリングエコノミーの考え方や働き方の多様化、そして個人の情報発信力やその影響力の高まりなど、確かに暮らしの至るところにその兆候を感じる。
自分探し=心地よさの集積
風の時代は、よく言えば、規定の枠組みにとらわれず、自分の心地よさに素直になってよい時代だ。もちろん、利己的ということではなく、おのおのの状況や環境、そして心地よさが違うことを前提に他者と認め合うための共感や配慮は必須である。
ただ、言うは易しで、現状ではなかなか自分の心地よさを追求できる人のほうが稀であり、実現するためのハードルやリスクはつきものではあるが、徐々にこの方向に向かっていく、ということだ。
幸せや成功の定義やカタチが、いままでなんとなく決まったテンプレートが存在していたような世間基準から個人基準へと多様化が進むなかで、本質的な自分にとっての心地よさの集積がそれぞれの幸せや成功につながる。だからこそ、自分探し=自分にとっての心地よさについて模索・追求・見直しを繰り返すことがこれからますます重要になっていくのではないだろうか。
送り手も受け手も“心地よさ”に敏感になっていく
“心地よさ”に対しては、すでに送り手も受け手も敏感になってきている。 私のクライアントは化粧品関連企業やファッション関連企業がメインだが、数年前から化粧品であれば効果はもとより、化粧品を使っている際の心地よさ=香りやテクスチャ-へのこだわり、ファッションアイテムでは肌触りのよさや着心地のよさに送り手も受け手も熱量が高まっていることを感じるようになった。レジャー関連では、あるホテルのバスローブの肌触りが最高で、買って帰る人が続出……という話題もSNS上でしばしば目にする。
ただでさえストレスの多い現代社会に、新型コロナ大流行を要因とする閉塞感やネガティブ要素が蔓延するなかで、大小問わずポジティブな出来事やニュースへの渇望感が高まっている。風の時代のムードに加え、こんなときだからこそ一層、受け手に心地よさを提供したり支援したり、新発見をさせてくれるモノ・コト・サービスが、消費の一つのフックになっていくかもしれない。
著者情報
伊藤忠ファッションシステム㈱ 第1 ディビジョン マーケティング開発第1 グループ マーケティング部門にて、トレンド分析、ifsオリジナル世代区分を活用したターゲット分析、ブランド新規開発、リブランディングなどに携わる。クライアントはビューティ、ファッション、生活用品メーカーをはじめ多岐にわたる。1988年生まれのハナコジュニア世代。一児の母。趣味はカラオケで、社内のカラオケ部初代部長。
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