サステナビリティ戦略アップデート 第2回  未来思考型「日本流」を世界に示す好機

「三方よし」が根付く日本企業にとっての好機  

第一回では、アイスブレイクも兼ねてサステナビリティ戦略を概観してきた。その結びで、日本企業は国際潮流を把握しながらも、外発的に横並びに戦略を打ち出すのではなく、むしろ自社の強みとなる事業をどう変革すれば、社会変革につながるか長期的視座をもつことの重要性を説明してきた。サステナビリティ戦略の入口は、自社の誇れる視点は何か、それによって解決できる社会課題は何か、と考えるほうが実現可能性が高く、経営資源の最適化にもつなげることができるからである。
日本は人口減少、高齢化によりビジネス環境がますますシビアになると言われている。一方で、利他的な視点を採り入れようとする国際潮流は、「三方よし」が根付く日本企業にとって、世界に発信できる好機であると捉えることができる。欧米企業の株主価値を中心に据える考え方に対し、持続的に成長してきた日本企業の多くは自社の成長だけでなく社会の価値を大切にしてきたという歴史がある。変化のなかで本質を見極めることがますます重要になる時代で、当時は問題となっていなかった環境視点が加われば、「三方よし」は日本だけでなく世界の羅針盤となる可能性を秘めている。
この好機を活かすためにも、まず日本企業は腰を据えて環境・社会面での国際潮流を正確に把握する必要がある。
本稿ではなぜいま、ここまで強くサステナブルへの変革が必要なのか、ビジネス視点を中心に辿っていきたい。


加速する「脱炭素」の国際的コンセンサス

2015年のパリ協定を機にヨーロッパから生まれた気候変動対策の波は、3年後の18年、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「1・5度特別報告書」により、加速度的に認識が広がった。このうねりは各国の政府だけでなく、金融期間、機関投資家、民間企業にも押し寄せ、SBTi、TCFD、RE100、CDPといった国際イニシアティブが媒体の役割を果たし、企業にエンゲージメントを求めだしている。
このようなソフトローは法的義務こそ持ちえないが、国境を超えて合意形成する際には多大な影響力を発する傾向にあるのもいまの時代の特徴だ。
国際潮流における脱炭素アジェンダの最重要問題は、世界中がこのままのペースで経済活動が進めば地球の平均気温は産業革命以前と比較し2℃上昇し、ビジネス環境だけでなく、環境や生物多様性に甚大なマイナス局面をもたらすとしている。日本でも20 年、菅前首相の所信表明演説にて「グリーン社会の実現」と表して、「2050年カーボンニュートラル」が宣言された。
別表は脱炭素社会の実現に向けたヨーロッパを中心とした先進国企業の大まかな方向性を図式にしたものである。各項目の詳細な説明は割愛するが、気候変動がターニングポイントとなり対応力を高め変革を意図していることがわかるはずだ。


日本における企業経営に向けた要諦

●「脱炭素」を本業に組み込むことで長期的な利を得る
ビジネスセクターの要所において、脱炭素が利益を生む視点は主に以下の二つ。
・投資や融資に加え、取引条件等の本業の成長性・収益性の双軸に影響する可能性が高い
・早期対応ほど公の支援などインセンティブが高い措置が検討されている
たとえば炭素税導入の方向性を見ても、足元では低位の基準を導入したうえで、将来に向かい段階的に水準を引き上げていく。激変緩和を図りながらも、予見可能性を示唆し早期に脱炭素に取り組むインセンティブを付加していく意向が環境省の資料から見て取れる。カーボンニュートラルの達成が早まれば負担総額は低減できるという算段である。

●透明性の高い開示は支援者をつくる
透明性の高い情報開示によって格付機関や投資家をうまく巻き込むことも重要だ。投資家も企業と同様に、不確実な社会に対して不安を抱いているからだ。
投資家のフィードバックを活用し、経営レジリエンスを高め、好循環をつくり上げる。開示や評価に過度に備えるのではなく、評価機関も企業価値のケイパビリティを習得させるための支援者としてみると、少し軽やかに捉えられるのではないだろうか。ただし、あまりバランスシートを気にしすぎる必要性はない。変革によるPLの積み重ねこそが長期的な成長に効いてくるからだ。
また株主だけでなく地域社会、従業員、まだ見ぬ顧客までステークホルダーとのコンセンサスも重要となる。リスクが複層化する社会環境に真摯に対応する姿勢を発信すること自体を好意的に捉え、支持してくれるサポーターがふえるはずである。

●複数のシナリオによってレジリエンスを高める
不確実なビジネス環境では、事業がシナリオに沿って進む可能性のほうがむしろ低い。仮に自社戦略の蓋然性が高まったとしても、社会・環境が想定通りにならないことも大いにありうる。どのような未来になったとしても、自社の経営が盤石であるように複数のシナリオを想定し戦略的に備える必要がある。

● 事業の本業が地球や社会に貢献するという視座
では具体的に何から着手すべきか、以下は筆者がコンサルテーションするときの着眼点の一例である。
①自社の脱炭素の方向性について、長期と短期を分けて戦略を練る
②事業変革によって社会をどうリードするか、また志を会社は持ち続けられか(脱炭素で成長するという視点)
③複数のシナリオを準備する
④資金を確保する
自社事業の特徴や強みを結びつけ、新たな価値を生み出すイノベーション力を高めることから着想し、それによって解決できる社会課題は何か考えることをフレームワークとして提案している。


「日本流」サステナビリティが羅針盤になる

社会・環境課題への取組みは、どうしても小手先で考えるとビジネス上ではトレードオフとして捉えられ、これまで先送りされてきた経緯がある。ただし前述のとおり、現在のモメンタムで経済活動が継続すれば、気候変動は「待ったなし」の状態である。温度上昇と世界人口の増加の傾きをデータで見る限り、現状からの変革が必要であり、ビジネスセクターが主となり各セクターと協力すれば実現可能性も高まるはずである。
今後は日本が世界のリーダーとなる好機であり、「日本流」の善行がビジネスと国際社会や環境の改善を前進させる可能性が大いにある、と筆者は見立てている。
読者のみなさまの絶え間ない事業経営に敬意を払い、本稿が少しでも前進の一助になれば本望である。末筆ではあるが、日本企業の礎を築いた渋沢栄一の言葉で本稿を締めさせていただく。
「世の人が元気をなくしており、社会の発展が停滞している。いままでの仕事を守って間違いなくするよりも、さらに大きな計画をして発展させ、世界と競争するのがよいのだ。」


著者情報

ifs未来研究所 所長代行 アントレプレナーとして事業経験後、現職に就く。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承し、環境・社会・経済を「一体かつ不可分」とした未来型協働解決アプローチを実践する。 74年生まれの団塊ジュニア世代。

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