サステナビリティ戦略アップデート第4回 ファッションを愛するすべての人へ

業界全体で課題解決に取り組むファッション産業の動き

今回で4回目を迎える本連載であるが、前回は、個社で解決がむずかしい産業構造や社会システムの変革のアプローチについて、筆者考案のステークホルダー全体で協働する「インクルーシブインパクト」を説明させていただいた。今回は、産業モデルの循環型への変革、カーボンニュートラルに動きだした国内外のファッション産業に焦点を当て、インクルーシブインパクトと重なる部分を概観していきたい。異業界でも、VUCA時代の協働のアプ
ローチとして、読者のみなさまの事業あるいは産業に共通の視座を見出す一助となれば幸甚である。


●ファッション産業が抱える課題
日本の人口は2030年には1億2000万人を割り込むと予測されており、人口の30%が65歳以上の高齢者となることで、労働力人口の減少、国際競争力の低下、過疎地域の増加、地方と都市部との経済格差拡大といった問題が起こることが危惧されている。一方で、人口増加に伴い発展を遂げる海外市場では、ファッション産業を成長分野と捉えており、国内ファッション産業視点においても国際動向を把握し対処していくことの重要性が高まりつつある。
しかし、ファッション産業は環境負荷が大きい産業として捉えられはじめ、特に供給過剰による廃棄の問題や、生産国の労働環境の問題で「明らかにされていない実情がまだまだ隠れているのではないか」と指摘されている側面もある。そのため、健全な産業への転換を目的に「透明性」を高め現状を正確に把握することにグローバルのファッション業界は今後最も力を入れていくと考えられる。
ただし、その長く複雑なサプライチェーン構造により、環境負荷をそれぞれの段階で把握し因果関係を紐解くには、確立されたロジックや計測基準もないため、業界全体で取り組む必要がある。
環境省の21年調査によると、国内では1年間に一度も着用されない洋服が国民一人当たり約20枚以上とされ、「つくる側」の責任を問うだけに留めず、「つかう側」にも協力を仰ぎ、行動変容を促進することも求められる。
海外では、すでにイノベーションの実践知が生まれてきており、呼応する形で日本においてもうねりが起きはじめてきた。ここからは、そのシンボルとなるようなグローバルおよび国内の動向に触れていきたい。


TFPとJSFAにみるセクター間連携による変革

● 欧州の企業連合の動き「The Fashion Pact」(TFP)
19年、フランスで開催されたG7サミットでTFPが発足した。同協定の焦点は、「気候変動への対策」「生物多様性の保護」「海洋の保護」を目指した3つの枠組みとなっている。
この企業連合は、前年に就任して間もなかったフランスのマクロン大統領が、GUCCIなどグローバルファッションブランドを有するKeringグループ会長に直接呼びかけたことがきっかけとなった。行政と連携した企業セクターが、地球環境という大きなアジェンダに対し立ち上がった共通のコミットメントのもとに連合を組んだのである。
TFPには21年段階で71社が参加。KeringグループのGUCCIをはじめ、C H A N E L 、B u r b e r r y 、N I K E 、Adidas、ZARAを擁するINDITEX、H&Mなど多くの主要ファッション企業が加盟しており、世界のファッション産業のシェアの3分の1を占める規模となっている。

● グローバルに大きな影響力を放つ国際イニシアティブやソフトロー
国をまたがる環境課題には、国際イニシアティブが規定する「ソフトロー」が、時として法律(ここで言う「ハードロー」)よりも影響力が大きいことがある。TFPは脱炭素の国際イニシアティブであるC D P(Carbon Disclosure Project)、SBT(Science BasedTargets)、RE100などと連携し、コミットメントの実行を推進している点が特徴である。

● 環境負荷把握は企業単位から製品単位へ
一方、環境負荷の把握という視点では企業活動の視点だけでなく、製品のライフサイクル全体(生産から製品の使用段階、廃棄に至るまで)でアセスメントする動きがある。この動きは企業単位のCO2把握においては算出ロジックが産業の特徴を表わさないケースがあり、削減活動が反映されない計算方法が散見されるためだ。
たとえば、サプライチェーンの排出量では輸出額で計測される場合、欧州諸国が上位を占める。一方で輸出量では生産国であるバングラデシュ、中国、次いでヨーロッパの順である。つまり、生産活動の相対的な環境への影響は、先進諸国よりもはるかに大きいと考えられる。アジア諸国(ここ20年は中国から東南アジアに南下していった)の労働者は貧困率が高いうえ、工場廃水や気候災害による有害な労働環境にさらされている。ファッション産業は地球規模の問題に取り組む以上、最大の問題領域である生産国の取組みに焦点を合わせる必要がある。

● ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)
JSFAは「環境省のリーダーシップ」と「企業間の声かけ」によって、合同勉強会がその設立起源となっている。21年3月に設立準備が開始され、同年8月に11社で創設、現在は40社、3省庁(環境省、経済産業省、消費者庁)のパブリックパートナー、特徴ある事務局によって構成される。ファッション産業の個社では解決できない課題を企業・社会・生活者が連携して持続可能な状態へと変革すべきという会員各社の使命から成り立っている。
その具体的なミッションは、生産から廃棄までの循環性の向上、適量供給化への原動力となることである。21年11月の第一回総会で発表された「ファッションロスゼロ」「カーボンニュートラル」のビジョンの実現には、社会・経済システムも含めた資源循環型のバリューチェーン形成が不可欠である。JSFAは循環性を考慮した開発設計から再利用の産業基盤づくりまで、海外生産拠点、国内サプライチェーン、流通、二次流通、廃棄、物流、生活者、関係省庁、あらゆる有識者と対話し実現に向けた原動力となることを宣言している。また廃棄量増加の根源は企業側の過剰供給にあり、生活者ニーズと均衡した供給量の実現を先導していく方針だ。
JSFAを構造分解すると以下のようになる。

①会員間における共通のアジェンダ=「ファッションロスゼロ」「カーボンニュートラル」
②TFPにはないバリューチェーン全体を網羅する会員、行政連携、メディアの協力
③コンセンサスが中心となる定例会組織、課題解決策を策定する委員会組織、重要意思決定を担う総会組織で構成
④活動を支えリーディングする事務局組織

22年に入り、パブリックリレーション委員会、政策提言委員会、技術開発委員会などのタスクフォース(委員会)が立ち上がり、今後は行政と連携した共通指標づくりなどルール形成にも活動の幅を広げる予定だ。
JSFAの設立目的は、サステナブルなファッション産業への移行を推進することである。そして国の目標である50年を前にして、原材料から最終処分までの全過程において、CO2排出の削減と吸収によって排出量が実質ゼロとなるファッションの「カーボンニュートラル」を実現するという長く険しい船出を決断したのである。

● ファッションを愛するすべての人へ
ファッション産業に従事する人の思いを代弁すれば、目指すファッションの持続可能性とは、地球環境に負荷をかけずに今後も人々に豊かさをもたらす生活文化としてあり続けることであると筆者は認識している。
JSFAはファッション本来の魅力と持続可能性のバランスを保ち、イノベーションをすべてのステークホルダーとともに目指していくのである。
TFPもJSFAも長期的視座に立ち、セクター間連携によるインフラストラクチャーを伴った変革を目指すアプローチ「インクルーシブインパクト」の実例として今回紹介した。社会全体でそれぞれの強みを相互に補完し合えば、想像を超える成果が期待できると筆者は確信している。



※上記「サステナビリティ戦略アップデート 第4回」の内容は『月刊レジャー産業資料4月号』 にて掲載
掲載元 / 綜合ユニコム株式会社 : https://www.sogo-unicom.co.jp/leisure/


著者情報

ifs未来研究所 所長代行 アントレプレナーとして事業経験後、現職に就く。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承し、環境・社会・経済を「一体かつ不可分」とした未来型協働解決アプローチを実践する。 74年生まれの団塊ジュニア世代。

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