インターネットに接続しながら映像や音声データを楽しめる「ストリーミング配信」が、昨今目覚しい急成長を遂げ、世界規模でそのビジネス市場を拡大している。ダウンロードして端末に転送したり、スマートフォンのストレージ容量を使ったりといった制限がなく、ネット環境があればスムーズに再生し、動画や音楽をいつでもどこでも楽しむことが可能だ。2018年、映像と音声両方に於けるメディアディスラプションは、更なる加速を実現した。現在、ストリーミング市場を依然牽引しているのが、音楽配信サービス「Spotify」, 映像配信サービス「Netflix」そして、動画共有サービス「YouTube」の3社。 このストリーミングエコノミー発展の背景には、テクノロジーの進化によってインターネットが普及したこと、ミレニアル世代やGen Z世代に代表されるテックネイティブ世代を中心とするデジタル人口の拡大、クラウドの普及によってスケールしやすくなったことが第一に挙げられる。また、世界的に拡大するシェアリングエコノミーの急速な広がりにより、かつての所有から、所有せずサービスとして利用・アクセスする流れへと台頭したこと(所有することの煩わしさに対するソリューションの拡大)、導入のしやすさ、使い勝手、コストの優位性等が挙げられる。 今回は、益々拡大の一途を辿るストリーミングビジネスの音楽と映像分野をレポートさせていただきます。
■世界的な成長を遂げる音楽ストリーミング
CDが売れなくなって久しい昨今、音楽業界では音楽を販売する形態が激変している。その背景には、インターネットやモバイルの浸透によって、iTunes等のオンラインプラットフォーム上で楽曲のダウンロード販売が可能になったこと、その後、音楽ストリーミングサービスSpotifyの登場で、楽曲のダウンロード販売といった所有から、所有しないでサービスにアクセスする音楽ストリーミングサービスが主流になった。International Federation of Phonogram and Videogram Producers(国際レコード・ビデオ製作者連盟)が発表した「Music Consumer Insight Report 2018」(https://www.ifpi.org/downloads/Music-Consumer-Insight-Report-2018.pdf)によると、モバイル端末で音楽を聴く人が増加し、調査対象の86%が音楽配信サービスを利用、75%が音楽再生にスマートフォンを使用、72%の16-24歳が通勤通学で音楽ストリーミングを利用していることが判明した。また、The Recording Industry Association(アメリカレコード協会)(https://www.riaa.com/)が公表した2018年上半期報告書によると、音楽ストリーミングサービスが、音楽産業売上全体の75%を占めるところまで成長(前年比28%増)し、急速にシェアを伸ばしているという。昨年だけで有料ストリーミングの収益が41.1%増加し、有料のサブスクリプションサービス利用者も増加の一途を辿っている。
海外戦略とフリーミアム戦略で音楽市場を牽引し続けてきたSpotify
市場を俄然牽引するのはスウェーデン発のSpotify。世界中のアーティストによる4,000万曲以上の音楽やポッドキャストを楽しめる音楽ストリーミングサービスを提供。利用期間は無制限で、楽曲全曲へのフルアクセス、再生といった基本的機能を無料で提供。また月額$9.99でSpotify Premium(好きなトラックをいつでも再生可能、オフラインでの視聴、広告による中断がない、スキップ無制限、高音質)へアップグレードすることができる。アーティストへの印税は広告収入から支払われるシステム。Spotifyが世界最大の利用者数を誇る音楽サブスクリプションサービスに成長した背景には、①フリーと有料(プレミアム)両方のオプションを提供した”freemiumアプローチ“(基本的なサービスや製品は無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能については料金を課金する仕組みのビジネスモデル)と、②各国に拡大させた海外戦略が功を奏したと考えられている。
2018年8月、Samsungとスマートフォン、スマートスピーカーにおけるデフォルト音楽サービスとなる提携を発表。今後のSamsungとの長期のパートナーシップも更なる成長のキーとなる。また、動画配信サービス会社Huluと提携し、月額$12.99で音楽、映画もドラマも楽しめるセット販売「Spotify Premium. Now with Hulu」を発表し、更なる拡大を狙う。
米国内でSpotifyの有料会員数を抜いたApple Music
2015年、サービスローンチされた音楽と映像ストリーミングサービス「Apple Music」は、これまでSpotifyに続く2番目に大きなプラットフォームであったが、独自のブランド力を生かしてSpotifyの強力なライバルとして君臨。昨年4月時点でApple Musicの総会員数(有料会員+トライアル会員)は5600万人(2008年12月時点)を突破したといわれている。音楽系サイトDigital Music News(https://www.digitalmusicnews.com/)によると、米国に於いてApple MusicとSpotifyの有料会員数は、Apple Musicが僅かにSpotifyを上回ったと発表した。(Spotifyの無料登録者数は含まれていない)。この背景には、iPhoneやiPadのMusicアプリから簡単にアクセスできる「手軽さ」や、Apple Music 独自の映像コンテンツの提供が挙げられ、今後もApple Music加入者の益々の増加が予測される。アーティストのロイヤリティを徴収する新進企業「Create Music Group」
https://createmusicgroup.com/https://www.musicbusinessworldwide.com/create-music-group-now-shows-daily-youtube-spotify-and-apple-music-revenues-to-its-artists/
音楽業界にディスラプションをおこし、業界に活性化を起こしている音楽ストリーミングサービスであるが、これまでアーティストへのロイヤリティの低さが問題になってきた。音楽チャートで常に上位の大物アーティストでもない限り、インディーズ系アーティストの利益は非常に薄いのが現実。
LAを拠点にJonathan StraussとAlexandre Williamsの2人が2015年に設立した「Create Music Group」は、音楽ストリーミングビジネスが抱えてきたロイヤリティ問題に変革をもたらした企業。アーティストにストリーミング業界に蔓延する問題点を指摘し、アーティストや音楽レーベルに代ってYouTube動画のロイヤリティを徴収。それまでは、楽曲がネット上で拡散して人気が高まってもアーティスト自身が気づかないことが多かったが、Create Music Groupが代わりにロイヤリティを徴収するシステムを構築したことで、アーティストも思いがけない収入を得ることができるようになった。同社は、有能なアーティストを次々に発掘し、音楽配信とパブリッシングを行う事業を立ち上げ、多くの主要レーベルと著作権管理やA&R契約を締結。
■映画館離れを引き起こした映像ストリーミング
「映画館離れ」が叫ばれる昨今、その原因として挙げられるのは、定額でサービス内の映画やドラマをいつでもどこでも何本でも楽しめる「Netflix」や「Hulu」等の動画ストリーミング・サービスの台頭だ。ストリーミング配信などデジタル視聴は2013年の15.8%から36.8%と倍増。市場を牽引してきたNetflix
https://www.thisisinsider.com/most-watched-netflix-shows-2018-12#santa-clarita-diet-42018年、Netflixは第3四半期の業績を発表した際に、第4四半期でさらに940万人の加入を見込み、年末までに利用者が1億4500万人に到達するという見通しを明らかにした。Netflixが公開したデータによると、米国のスクリーン視聴時間の約10%を同社が占めるという。ドイツを拠点にするオンライン統計企業Statistaが2018年に行った「視聴方法に関する」調査によると、Netflixのストリーミング時間のうち携帯電話(10%)、タブレット端末(5%)で視聴されるのはわずか15%で、70%はTV, 残りの15%はノートPCで視聴されていることが分かった。
Netflixは、2年前からリアリティショーのジャンルでオリジナル作品の制作を開始。米国でも人気を博している片付けコンサルタント近藤麻里恵氏が出演する「Tidying Up with Marie Kondo」等のNetflixオリジナル番組が、Netflixにあるリアリティショージャンル全体の過半数を占め、リアリティショー全体の視聴時間も増加している。
現在、Netflixは、190カ国でサービスを展開するが、今後の成長は米国外からもたらされると予測されている。
Netflixに対抗、競争が激化するストリーミングサービス市場の今後
市場をリードするNetflixに対抗すべく、競争相手であるApple は10億ドルを費やし、2019年上半期に新しいビデオストリーミングサービスをローンチする予定であると発表。また、2018年、メディア大手Time Warner(現WarnerMedia)の買収を完了した米通信大手AT&Tは、HBO, Turner、 Warner Brosのコンテンツを視聴できる独自の新しいストリーミングプラットフォームをローンチし、競合に対抗する。WarnerMediaは幅広い年齢層を網羅するコンテンツの充実度と知名度のほかに、多彩なTV番組も揃う。
独自のストリーミングサービス「Disney+」を2019年末に開始予定のDisney
以前からNetflixに対抗できるようなストリーミングサービスを配信したいと思っていたDisneyは、動画配信市場へ進出するために、16億円を投じてMLBのストリーミング会社BAMTechの保有株を増やし、昨年末に21st Century Foxの事業を540億ドルで買収。このことで、21st Century Fox傘下のHuluの株も取得することになった。2019年末には独自のストリーミングサービス「Disney+」を開始予定。今までNetflixなどで配信されていたDisney・Pixar作品は2018年に契約が終了し、今後は「Disney+」のみの配信となるという。料金は、定額の月額料金制でNetflixよりも大幅に安くなるようだ。Disneyは、そのほかにPixar, STAR WARS, MARVEL, National Geographicと併せて5つのレーベルと、Huluを傘下に持ち、Netflixを怯やかすストリーミングサービスになるのではと言われている。消費者は、人気のTV番組だけ視聴しているのではなく、ライブ配信コンテンツを定期的に視聴しているという。YouTube, Facebook, Twitter, Instagramなどの主要なソーシャルメディアプラットフォームの多くは、ライブ配信ツールを導入。今後ライブ配信の重要性は益々高まってくるといえよう。