また、2019年5月、ミュージシャンのRihannaは、巨大ラグジュアリーコングロマリットLVMHと提携し、コンテンポラリーラグジュアリーブランド「Fenty」(https://www.fenty.com/us/en/home)をローンチ。このブランドの実現によって、LVMH初の非白人女性によるメゾンが誕生し、LVMHが最初から手がけるブランドとしては、1987年に誕生したChristian Lacroix に続く2つ目のラグジュアリーブランドとなった。Fentyの誕生は、LVMHという歴史と伝統を継承する老舗ラグジュアリーブランドを傘下に抱えるコングロマリットに大きな変化をもたらしたといえよう。
今回は、数多といるアフリカ系アメリカ人デザイナーの中でも、特に、メゾンに大抜擢されたVirgilとRihanna両者のファッション業界に於ける成功の背景を探っていきたいと思います。
■多様性と包容性を重要視し、起業家としても大成功しているRihanna
全ての人を対象に、あらゆる肌タイプと肌色に対応した次世代のコスメブランド:FENTY BEAUTY BY RIHANNA

https://www.lvmh.com/news-documents/news/rihanna-launches-fenty-beauty-makeup-brand-with-sephora-exclusive/
Fenty誕生の背景には、Rihannaが、LVMH傘下のKendo (https://kendobrands.com/)と提携しローンチした自身のコスメブランド「FENTY BEAUTY BY RIHANNA」(https://www.fentybeauty.com/minis)を大成功へと導いた経緯がある。同コスメラインの特筆すべき点は、あらゆる肌タイプと肌色に対応していることだ。これまでは大手コスメブランドに於いても、ファンデーションの色展開は20色前後と極めて少なく、白人女性を基本にした限られた色展開が中心で、中には数色のファンデーションを混ぜて自分の肌トーンに合うものをブレンドしている人も多かった。そのようなジレンマを解消すべく登場したのが、多様性と包容性を重要視し、肌トーンや性別を超越したコスメブランド「FENTY BEAUTY BY RIHANNA」。同ブランドのファンデーションPRO FILT’R($35)は、販売当初から40色の色展開を実現し、美容業界に大きなインパクトを与えた(現在PRO FILT’Rは50色展開)。2017年、FENTY BEAUTYは、Times誌の”best invention of 2017”に選出された。全ての人を対象に開発された「FENTY BEAUTY BY RIHANNA」の製品は、2017年LVMH傘下のコスメチェーンSephoraで独占販売を開始し、販売から40日間で1億ドルの売り上げを記録。LVMHのBernard Arnault 会長兼CEOは、「FENTY BEAUTY BY RIHANNA」の提携を通して、Rihannaが真の実業家、本物のCEO、そして素晴らしいリーダーである事を目にし、彼女との提携によるFENTYブランドの誕生は自然な流れだったと語っている。
“「美しさ」や「セクシー」の解釈はひとつではない!“人種、体型、性別の多様性を讃えるランジェリーブランド:「Savage X Fenty」

https://jezebel.com/rihanna-showed-everyone-how-its-done-at-her-savage-x-fe-1829024106
2018年5月、Rihannaとカリフォルニアを拠点にするTechstyle Fashion Group(https://techstylefashiongroup.com/)がパートナーシップを締結し、人種、体型、性別の多様性を讃えるランジェリーブランド「Savage X Fenty」を2018年秋冬NYコレクションで発表した。ありのままの体型をポジティブなものとして捉え、受けいれる「ボディポジティビティ」の流れを反映したSavage X Fentyのショーでは、国籍、人種、体型も様々な女性モデル達が個々の美をステージで表現し注目を集めた。同ブランドは、”Body Inclusivity”の観点からブラのサイズを32A~46DDDまで展開(ちなみにVictoria Secretの場合、32B~38Cのサイズ展開)し、インクルーシブな時代に生きる我々に「美しさ」や「セクシー」さの解釈はひとつではないことを体言した。
現在、アメリカ国内では、トランプ大統領が2017年に誕生して以来、人種差別や女性軽視ともとれる発言が白人至上主義を煽り、アメリカ社会の分断に拍車がかかっている。一方で、消費を牽引するミレニアル世代やZ世代の若年層は個々の個性を重視し、多様性(ダイバーシティ)を当然の如く受け入れる傾向が強い。Viacom Incの関連会社でGen Zを主要ターゲットにするマルチプラットフォームメディア会社Awesomeness(https://awesomenesstv.com/)が、トレンド予測やブランド戦略を専門にする調査会社Trendera(http://www.trendera.com/)と提携して行った調査によると、Gen Z世代のおおよそ1/3近くが”全ての人間は平等であるという強い信念”を持っていることが分かった。更に、彼らの80%が黒人の権利を主張する社会運動「Black Lives Matter」を支持し、74%が「トランスジェンダーの権利」を、63%が「フェミニズムの活動」を支持。現代社会は、これらのムーヴメントを受け入れるべきだと主張。特にGen Zは、どの世代よりも社会問題に対して、自分の意見を主張することに熱心であることが調査から判明した。
Rihannaの成功は、歌手としてだけでなく若年層のリーダーとして、多様性や包容性をブランドの核として掲げ体言する姿勢が、混沌とする現代の米国社会に於いて、人間は平等であるという強い信念を持つミレニアル世代やZ世代に賞賛され受け入れられている理由ではないだろうか。
■ストリートウェアとラグジュアリーブランドの融合を確立し、老舗メゾンに革命をおこすVirgil Abloh
建築のバックグラウンドを持つVirgil Ablohは、2012年に設立したストリートウェアブランド「OFF-WHITE」の設立者兼CEO、デザイナー、ラッパー、シンガー、プロデューサー、Kanye Westのアートディレクター、DJやギャラリーオーナーとマルチな顔を持つ。Kanye Westと共に、LVMH傘下のFendiでインターンをしていた際に、「当時既にディスラプターとして頭角を現し、老舗メゾンに新しい表現や風を持ち込んだ」と当時FendiのCEOで現Louis Vuittonの代表取締役兼CEOのMichael Burke氏に強烈な印象を残していたという。新しい価値の提案を行うストリートウェアブランド:「OFF-WHITE」の成功

https://www.dmarge.com/2018/03/virgil-abloh-louis-vuitton.html
Virgil Ablohが手がける若年層をターゲットにしているストリートウェアブランド「OFF-WHITE」の成功には、同ブランドがリアルなストリートと結びつき、数々のブランドとのコラボを介して消費者に興奮や高揚感を与えるユニークなブランドとして、今の時代にあった新しい価値のある提案をおこなっているところにあるといえる。また、かつてのブランド主体のトータルコーディネートではなく、消費者主体によって、個々のスタイルを自分で再解釈することに価値を見出し、未来に繫がるような新しい価値の提案を勤勉に行っているところが、個性を尊重し、重視する若年層からの絶対的な支持を得た最たる理由ではないだろうか。ファッションオンライン検索エンジンLyst (https://www.lyst.com/)の調べでは、2019年第一四半期に最も人気のあったブランドとしてOFF-WHITEが首位にランクインしたと発表。
OFF-WHITEコラボ事例:NIKE, Heron Preston, Levi’s, Moncler, AWGE, Jimmy Choo, Kith, Takashi Murakami, Byredo, Champion, Sunglass Hut, Timberland, IKEA, Le Bon Marche, Ronnie Fieg, Fragment Design, Vans, Umbro他。
独自のクリエイションを伝統に結びつけたVirgil Ablohが手掛ける新生Louis Vuittonの誕生

https://www.lvmh.com/news-documents/news/virgil-abloh-presents-first-collection-as-mens-artistic-director-for-louis-vuitton/
Louis Vuitton のような保守的なビッグメゾンがAbloh氏の抜擢という斬新な決断した背景には、OFF-WHITEの成功はもとより、ラグジュアリーとストリートウェアの要素を融合したデザイン、SupremeやNikeとのコラボレーションなどでブランドに多大なる貢献をした前任のKim Jones氏が築いた功績を引継ぐことができる人物、また、ファッション、アートそして音楽といったカルチャーを理解し、メゾンが継承する伝統や歴史を新しい革新的な方法で若い消費者に明確に表現することができる人物として、人種や歴史を超越したAbloh氏に白羽の矢が立ったのではないだろうか。
Abloh氏の起用は、この多様性と包括性の時代において、変革を求めるファッション業界に必然的な流れであったと同時に、新しい価値を求める若年層のラグジュアリーショッパーへの訴求に繫がるであろう。
彼らの今後の活躍から目が離せない。