■世界でますます高まるアートへの投資熱
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-global-art-market-reached-674-billion-2018-6
インターナショナルアートフェア「Art Basel 」(https://www.artbasel.com/)とスイスを拠点にする金融グループ「UBS」が、「The Art Basel and UBS Global Art Market Report2019」を発行。(https://www.artbasel.com/news/art-market-report)著名な文化経済学者Clare McAndrew博士が執筆した同レポートによると、2018年、世界におけるアート市場規模は、674億ドル(約7.3兆円)に到達し、前年より6%増加。これはアート市場過去10年において、2014年の682億ドルに次ぐ2番目に高い数字となった。
現在世界のアート市場を牽引するのが、市場シェア44%(前年より2%増)の米国、次いで21%の英国、そして19%(前年より2%減)の中国の3国で、総売り上げ高の84%を占める。昨今、世界中でアートが投資対象として注目を集め、その動きは欧米、アジアだけでなく中東へも広がり、アートへの投資熱がますます高まっている。
■若年世代の富裕層によるアート購入が活況
昨今では、若年の富裕層による高額な美術品への投資意識が高まってきていることが窺える。過去に米国内のアートコレクターを対象にした調査では、回答者の大多数が50歳以上であったが、2018年、イギリス、ドイツ、シンガポール、香港と日本市場を対象にした調査では、ミレニアル世代のアートコレクターが台頭。特に、その数はアジア圏で顕著で、シンガポールではアートコレクターの46%を、香港ではアートコレクターの39%をミレニアル世代が占めることが判明した。■オンラインアートギャラリーの出現
また、同レポートによると、2018年、オンラインアート市場は11%増の過去最高額60億ドルに達し、其のうち52%が新規顧客による購入であったことが分かった(前年より7%の増加)。更に、93%のミレニアル世代の富裕層コレクターが、オンラインでアートを購入したことがあると回答。オンラインギャラリーの出現によって、瞬時に世界中のアートにアクセスでき、簡単にアートを購入することが可能となったため、かつての“アートの購入”=“敷居が高い”という認識が薄れつつある。■NYアート事情
ここからはNYに於けるオークション動向、ギャラリー地区の変化、注目のギャラリーや話題のアート関連のアプリ等をお届けします。NY Spring Art Sale: Jeff Koons とKAWS人気
2019年5月、戦後・現代アートオークションがChristie’s, Sotheby そしてPhillipsで開催され、合計で$12億1400万ドルの売り上げを記録した。世界中のギャラリー、オークションハウスや美術館で展示されているアート作品をオンライン上で閲覧可能にしたオンラインプラットフォーム「Artsy」のアナリストによると、その中でもChristie’sが6億3195万ドルを記録、続いてSothebyが4億4770万ドル、Phillipsが1億3462万ドルと続いた。https://www.christies.com/lotfinder/sculptures-statues-figures/jeff-koons-rabbit-6205139-details.aspx?from=salesummery&intObjectID=6205139&sid=66a5fad9-cd75-4e77-bd8a-7fc5c9e484ec
https://www.nytimes.com/2019/05/17/arts/design/auction-contemporary-art-981-million-koons-kaws.html
5月15日にChristie’sで開催された戦後・現代アートオークションでは、NYを拠点にするアメリカ人アーティストJeff Koons氏のステンレススティール製の彫刻“Rabbit”が、9,107万ドルで落札され、現存アーティストとして、昨年11月のDavid Hockney氏の“Pool with Two Figures”の売り上げ9,030万ドルを上回る過去最高額を記録し、話題を浚った。
また、絵画・彫刻市場も変遷の真っ只中にある。両目にXX印を施されたキャラクターを用いた作品で世界的に知られる、アメリカ人グラフィティアーティストでデザイナーのKAWS(Brian Donnelly氏)の作品は、今世界中のバイヤー達から熱い視線を注がれている。5月にNYで行われた戦後・現代アートオークションでは、Christie’s, Sotheby そしてPhillips 3つのオークションハウスが同氏の作品を出品し、KAWSの作品は、Jeff Koonsと並んで現代アートの売り上げを牽引した。3つのオークションハウスがKAWSの作品を同時に出品作品に含めたことは初めてのことだという。
変わりゆくチェルシー地区
今からおおよそ20年前、マンハッタンの南西部に位置するチェルシー地区界隈は、あらゆる規模のコンテンポラリーアートギャラリーがひしめく、まさに“NYのギャラリー地区”であった。しかし、昨今の地価の上昇、来場者の減少や、出展料の高いアートフェアが増えた事が影響して、中小ギャラリーは、移転や閉店を迫られ苦戦を強いられている。一方で、多数の「ブルーチップ」アーティスト(世界からの評価が高い一流アーティスト)を抱え、資金力のある大きなギャラリーは売上も絶好調で、続々とミュージアム級のメガギャラリーへと拡張を遂げている。ミュージアム化するメガギャラリー
4大ギャラリーと呼ばれているGagosian, David Zwirner, PaceやHauser & Wirthも現在、チェルシー地区のギャラリースペースの拡張に注力している。これまでの “アートを売る”、“アートを展示する”だけのスペースから、来場者に体験を提供するフルサービスギャラリーとして、アートギャラリーの在り方とその役割を再定義し始めている。・Pace Gallery:
https://www.pacegallery.com/540 West 25th Street
https://news.artnet.com/market/pace-announces-lineup-new-space-hed-1566574
9月14日に4大ギャラリーの一つ、Pace Galleryが8階建てからなる新しいギャラリースペースをオープンした。面積7000平米を誇る新しいスペースは、5フロアに及ぶ展示スペースから成り、2階と6階には彫刻ガーデンを併設。その他にもリサーチ用のライブラリー、所蔵品を取り出し閲覧できる見せる収蔵庫他、人々が集まるオープンな場所をコンセプトに、新たに音楽、ダンス、フィルム、キュレーターとの会話を楽しめる総合的なプログラムスペース「Pace Live」を併設し、未来のアートギャラリーの在り方をコンセプトに、アートを多角的に体験できるスペースへと進化を遂げた。
・Gagosian
https://gagosian.com/美術商のLarry Gagosian氏が1980年に設立し、今では世界10都市(NY, London, Paris, Basel, Beverly Hills, San Francisco, Rome, Athens, Geneva, Hong Kong)に17のギャラリースペースを展開する世界最大のコンテンポラリーアートギャラリー「Gagosian」もチェルシー地区のスペースを拡張。西24丁目にある現ギャラリーと隣接する元Paceギャラリーと、かつてのMary Boone Galleryを引き継いだ。
・David Zwirner
https://www.davidzwirner.com/現代美術界で最も影響力のある美術商の一人として知られているDavid Zwirner氏によって1993年に設立されたメガギャラリー。その「David Zwirner」ギャラリーも、5000万ドルを投じて新しいビルをチェルシー地区西21丁目に建設中。5階建てから成るこのギャラリーは、Renzo Piano氏がデザインを手掛け、新しいビルには展示スペース他、オフィス、倉庫も併設予定。
・Hauser & Wirth
https://www.hauserwirth.com/1992年にスイスのチューリッヒで創業し、今では世界各都市に支店を展開する現代美術ギャラリー「Hauser & Wirth」も、現在新しい5階建てのビルをチェルシー地区の西22丁目に建設中だ。ビルのデザインは、Annabelle Selldorfが担当し来春のオープンを予定。Hauser & Wirthは、フルサービスギャラリーの先駆けで、2016年LAにオープンしたコンプレックスにはfarm to tableレストラン、菜園、彫刻庭園、ギフトショップや本屋が併設されている。
TriBeCa 新しいアート地区
https://www.nytimes.com/2019/09/18/arts/design/art-galleries-tribeca.htmlかつてはウェアハウスやトラックの搬出口が目立つ倉庫地帯であったTriBeCa地区には、ソーホー地区の地価高騰の影響で、多くのアーティスト達がロフトを改造し移り住んでいたが、近年の更なる地価高騰により、高級コンドミニアム、ブティックホテル、レストランやインテリアショップが並び、セレブリティも数多く住むマンハッタンで最も高級な住宅街の一つへと変化を遂げた。
最近では、チェルシー地区の家賃の高騰でTriBeCaに移るギャラリーが増え、また、オンラインショッピングの影響でリテールが不調なこともあり、かつてリテールショップだった場所にギャラリーが続々とオープンし始め、アートの歴史を持つTriBeCaがアート地区として再び注目を集めている。9月14 日には、アートフェア「Independent New York」が開催するギャラリー体験ツアー「TriBeCa Galley Wallk」(https://tribecaarts.org/)の2回目が開催された。TriBeCa Gallery Walkは2019年2月に発足し、今回で2回目を迎えた。
“Shazan for Art” Art作品検索アプリ:「Magnus」
http://www.magnus.net/https://www.gq-magazine.co.uk/article/best-art-apps
流れている音楽のタイトルやアーティストを知りたいときに便利な音楽認識アプリ「Shazam」(https://www.shazam.com/)のアート版とも言えるのが、アート作品検索アプリ「Magnus」だ。2013年、NYを拠点にアートマーケットエコノミスト、起業家、著者でもあるMagnus Resch氏によって設立されたMagnus appは、“アート市場に於ける透明性”をミッションに掲げ、最新のテクノロジー、長年のデータ編集とマニュアルデータ入力の両方を使用して、1千万点のアート画像をデータベースに登録し、2万件以上のギャラリーや美術館で使用が可能なユニークなプラットフォーム。俳優のLeonard DiCaprioも投資家の一人。
同アプリは、アート初心者からアートコレクターまでを対象に、気になるアート作品の値段、過去の売買履歴他、関連情報をその場で瞬時に提供。ユーザーは、まずアプリをダウンロードし、気になるアート作品(平なもの)をスマートフォンで撮影、その後アプリが、作品名、アーティスト名、現在の価格、過去の出展履歴、寸法、素材やその他の関連情報を表示するというシステム。
一般的にギャラリーやアートフェアでは、作品の価格をはじめ、圧倒的に表示されている情報が少ないのが実情。このアプリのお陰で、作品の値段だけでなく、最後に売れたのはいつか、幾らで売れたのかといった、過去の売買履歴も瞬時にわかり、作品購入の交渉に役立てる人も多いという。