1946年から、1964年生まれのブーマー世代を狙って、巨大テック企業のシニアヘルスケアへの進出や、かつてホスピタリティ業界で活躍した人材がシニアヘルスケア業界のトップに就任したりと、昨今シニアヘルス業界は非常に活気付いている様子が窺える。U.S. Census Bureau(アメリカ合衆国国勢調査局)(https://www.census.gov/)によると、2035年までに65歳以上の人口は7800万人に達し、そのうち52%が長期的ケアを必要とする事が判明。今回は、昨今のシニアのヘルスケア動向をリポートさせて頂きます。
■シニアヘルスケアトレンド
巨大テック企業もヘルスケア業界に積極的に参入
Appleに於いては、全米39の病院と提携し、iPhoneのApple Health Recordに患者の医療記録を表示することを可能にした。また、「Made for iPhone」補聴器をApple製機器とペアリングすることによって、デバイスから流れる音声が補聴器を通じて聞くシステムを導入。National Institution Health(アメリカ国立衛生研究所)によると、75歳以上の半数が聴覚を損失していると云われており、また、シニアの多くが長期的なケアを必要とする中で、iPhoneの機能は、シニア層への効果的な訴求に繋がる事が予想される。また、Apple Watchには、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を受けた心電図機能や、新しい服薬リマインダーアプリ機能が導入され、薬の摂取の忘れを防ぐことに一役買っている。トレンドとして、スマートウォッチテクノロジーが、着用者の健康管理だけでなく、高齢者住宅居住者のスマートキー替わりになると言われている。Amazonは、オハイオ州ダブリンを拠点にする心臓・血管治療のパイオニアであるCardinal Health(https://www.cardinalhealth.com/en.html)社と提携し、全米43州で医療サプライのディストリビューションビジネスを展開。また、Amazon Xという癌に特化した研究所を持ち治療研究への取り組み、2018年、オンラインスタートアップ薬局のPillPack(https://www.pillpack.com/)の買収や、コスト削減と治療を容易に行うことを目的とし、電子カルテ業界に参入。AIソフトウェアの販売を計画。
Googleに於いては、老化の原因と対処を目的とする老化研究所を立ち上げや、Google傘下のNestによるシアトルを拠点にするモバイルヘルスモニタリングスタートアップSenosis Health(https://www.senosishealth.com/)の買収等、巨大テック企業のヘルスケア業界への参入が非常に活発だ。
ホスピタリティやリテール業界で活躍した人材を積極的に採用
高齢社住宅業界では、数年前からホスピタリティやリテール業界で活躍した人材を積極的に採用している。今後は他業界の大物の同業界への進出が目覚ましくなると予想される。例えば、米ラグジュアリーフィットネスチェーンEquinoxの元CEOでIntercontinental Group傘下のKimpton HotelのプレジデントであったNiki Leondakis氏がアリゾナ州スコッツデールを拠点にするThe Wolff Company(https://www.awolff.com/)の高齢者住宅オペレーションの舵をとることになった。また、元ホワイトハウスプレスセクレタリーKris Engskov氏もワシントン州ベルビューを拠点に介護住宅や認知症ケアを牽引するAegis Living(https://www.aegisliving.com/)のプレジデントに就任。オンデマンドのフードデリバリーサービスとの提携も視野に
少子高齢化と労働力の減少を受けて、昨今、高齢社住宅ではシェフや調理担当者の長期的な人材の確保が課題となっている。その解決策の一環としてデリバリーサービスの導入が検討されており、フードデリバリーサービスDoorDash(https://www.doordash.com/en-US)等と提携を結ぶのではないかと言われている。DoorDashは、2013年カリフォルニア州パロアルトを拠点に当時、スタンフォード大学在学中のTony Xu氏、Stanley Tang氏、Andy Fang氏、Evan Moore氏が設立したオンデマンドのフードデリバリーサービス。2019年、米国、カナダとオーストラリアの4,000都市に於いて、340,000店舗と展開。米国に於いてGrubhubを凌ぐ最大の第三者デリバリーフードサービスへと成長を遂げている。テクノロジーの使用率
何かとミレニアル世代やZ世代に脚光が集まる今日。彼らのテクノロジーの使用率はいうまでもなく突出しているが、資金力のあるブーマー世代もデジタルライフを満喫。2012年から2019年に於いて、ブーマー世代のテクノロジー使用率は59%も上昇。また、新型コロナウィルス感染症のパンデミックを受けての自宅隔離期間には、他者との繋がりや楽しみを保つデジタルツールとして、更にテクノロジーの使用率の急増が予測される。■高級高齢者住宅の需要急増
昨今、米国では高級高齢者住宅コミュニティへの入所が人気を集めているという。これらのコミュニティでは、自立型住まいの高齢住宅から介護までバラエティーに富んだライフスタイルのオプションを提供。更に、ホテルのようなアメニティやコンシェルジュレベルのサービスがウリだ。入居費用として10万ドル(約1,100万円)から最大100万ドル(約1.1億円)、更に数千ドルの月額の維持費がかかるという。これらのコミュニティは、最も高額な長期ケアオプションとして、米国にある2,000余りの継続的なケア付きの高齢者たちの共同体CCRC (Continuing Care Retirement Communityの略)とそこに居住するおおよそ700,000人の居住者が対象だ。例えば、カリフォルニア州ソノマを拠点にするFountaingrove Lodge(https://fountaingrovelodge.com/)もラグジュアリーな高齢者住宅コミュニティとして近年富裕層から注目。同施設は、初のLGBTリタイアメントコミュニティでもあり、ラグジュアリーなカスタマイズサービスや、其々の入居者のユニークな要望に応えるリゾートスタイル、そして五つ星のアメニティと職業訓練を受けた思いやりのあるスタッフメンバーに定評がある。入居費用は100万ドル(約1.1億円)でその上に、月額の維持費として6千ドル(約63万円)以上がかかる。この中にはコンチネンタルブレックファストや21種類のフレキシブルな食事他、ハウスキーピングやウェルネス・フィットネスプログラム代が含まれる。更に、居住者は、フィットネスセンター、ワインセラー、アートスタジオ、プールサロン、映画館や賞受賞マスターシェフWolfgang Puck氏の元で訓練を受けたシェフによるファインダイニングレストランへのアクセスも可能だ。現在、Fountaingrove Lodgeの入居者数は100人で70人が入居待ちの状態だという。また、ダラスを拠点にするラグジュアリー高齢者住宅Ventana by Buckener (https://www.ventanabybuckner.com/)は、186部屋のアパートメント、ファインダイニングオプションとハイエンドなアメニティとサービスが特徴。現在建設中で来年オープン予定。入居費用は40万ドル(約4,224万円)から$180万ドル(約1.9億円)。月額費用は1.1万ドル(約116万円)で、既に81%が埋まっているという。■ユニークな取り組みSun City
https://suncityaz.org/アリゾナ州マリコパ郡サンシティは、米不動産会社Del Webb社が砂漠のど真ん中に人為的に造った街で、リタイアメントコミュニティと呼ばれる住宅街で形成され、退職者が住みやすいように様々な工夫がされている。街は7つの円状の街区から成り、どの家からも1マイル(1.6km)以内で中心にあるセンターに行くことが可能。センターには医療施設、ショッピングモール、銀行、郵便局、娯楽施設があり、レクリエーションセンターでは会員になれば利用できるゴルフコース、プール、フィットネスクラス、アートスクールなどがあり、近隣の住人達と余暇を楽しめるようになっている。入居者の年齢制限は55歳(同居者は19歳以上)で、未成年者が住むことができない規定がある。住人の平均年齢は73歳。American Community(https://www.census.gov/programs-surveys/acs/about.html)の調査データによると、2017年の市内世帯数は、29,217世帯で、1世帯あたりの平均人数は1人、家賃平均は月額1,012ドル(約11万円)。Del Webb社(https://www.delwebb.com/)は、1970年代後半にSun City West(https://suncitywest.com/), 1990年代後半にSun City Grand(https://www.suncitygrand.com/), 1999年にSun City Anthem(https://www.sca-hoa.org/)を、そして2006年にSun City Festival(https://www.oursuncityfestival.net/)を建設し、高齢者の為の町づくりを長年にわたって全米各地に作っている。
■スーパースターブランドの高齢者住宅業界への進出
25年前にはMarriot International Inc(https://www.marriott.com/marriott/aboutmarriott.mi)がシニアリビングに進出したが撤退。今後はラグジュアリーブランドが高齢者住宅業界へ進出する可能性があると予測されている。
昨今は、ミレニアル世代やその後続のZ世代に注目が集まっているが、他世代よりも経済的に余裕のあるブーマー世代の動向からも今後目が離せない。