ポストバブル的消費の先駆者。現在の30代は今後のモデルケースに
現在の30代は弊社世代区分でいうポストバブル世代の筆頭にあたり、団塊ジュニア世代[1971年~76年生まれ、現在36~41歳]とプリ上世代[1977年~81年生まれ、現在31~35歳]に相当する(図1)。バブル時代に育ちながら、社会人になってからは、何らその恩恵を受けることのなかった世代である。上世代であるプレバブル世代では、右肩上がりの上昇志向が刷り込まれ、他者との差別化が消費の大きな動機になっていたが、ポストバブル世代では、他者との比較感は薄れ、自身の等身大の消費生活を志向する(図2)。特に、団塊ジュニア世代・プリ上世代は、自分がどう思うかを基準に物事を考え、行動しようという傾向が強い。
さらには、上世代が確立した価値基準に対しては違和感を抱いており、感覚にフィットするものがなければ自ら作り出そうという、積極的な変革意識の持ち主であったりもする。ギャル、シェア、地元・地域志向のライフスタイルなど、この世代が切り開いてきた消費文化のキーワードも多く、今後下世代のライフスタイル変化の先鞭をつけるものとも考えられる。
図1 ifs世代区分
図2 世代別価値観比較
多様なライフステージが30代の消費生活の志向に影響
また、女性の社会進出、自由恋愛の浸透、非正規雇用の増加や男性の経済状況の悪化などにより、晩婚化・未婚化が進行し、これまで年齢と相関関係にあったライフステージは多様化傾向にある(図3)。つまり同じライフステージにあっても世帯によって収入のばらつき・格差が広がっており、同じ30代といえども一括りにはできない状況になってもいる。実際、目立った違いを与えているのは、世代差や男女差ではなく、未既婚や子の有無といったライフステージの違いなのである。既婚者の方が生活全般についての価値観がクリアであり、未婚者ではこだわりが少ない分野について世間体など他人の基準に左右される傾向がみられる。これは、既婚者の方がパートナーや子どもと暮らす中で、自身と家族の価値観をすり合わせ、無駄なもののそぎ落としや大事なものの優先順位付けに迫られる機会が多いためと考えられる。特に、消費については、子どものいる家庭では、自分の消費の動機づけにも子どもの消費を利用する傾向が強くなる。こうした未既婚・子の有無による価値観の違いは、ライフステージの多様化によって、これまで以上に見えにくくなっていることを示している。
図3 30代男女のライフステージの分布(出典:生活者の気分‘12調査より)
30代男女のライフステージの分布
人とのつながりを大切に、無理・無駄のない暮らしを志向
では、現在の30代はどのような消費生活を志向しているのか。ここでは先のライフステージによる違いを踏まえた上で、出来るだけ30代全体に共通する傾向を見ていくことにしよう。まず、顕著に見られる傾向が、自分にとって必要なものを見極めた、無理・無駄のない暮らしを心がけていることである。年齢とともに増えてきてしまったモノに対し、断捨離を断行するのは難しいと感じつつも、これ以上「物はできるだけ増やしたくないのでため込まないように捨て方を考える」といった意識を持っている。そんな中、不可欠なものとして最も大切にしているのは、家族、恋人、友人・知人、地域・地元や趣味のコミュニティといった、顔の見える人とのつながりに係わるもの。特に、地域コミュニティづくりに関しては、何かと不安の多い世の中で暮らすためのセーフティネットづくりとしても意識されているようだ。
こうした生活志向の背景にあるのが、「年齢=経験」の積み重ねである。転職や結婚を経て30代になり、自分の性格や行動パターンを客観的に把握できるようになっており、公私のバランスのとり方、人間関係の築き方、自己メンテナンス方法などを学習してきた。そうしたなかから、これまでの暮らし方を見つめなおし、より自分らしい暮らしを描き、手に入れたいと考えていると言えるだろう。実際、20代から30代で、結婚や出産などのライフステージの変化や転職・転居を繰り返し、ようやく満足のいく暮らしが手に入ったと感じている人も多い。
お金は限りあるものと認識。投資先は暮らし方を豊かにするモノコト
「ジャパンアズナンバーワン」の時代から、日本の経済成長力がじりじりと後退していく過程とともに育った30代。経済状況に対しては、今後、これまでのように右肩上がりの稼ぎは得ることは難しく、常に限界があるという考えが身に染みついている。したがって、消費に関しては、どこを削り、どこにお金をかけていくべきなのか、シミュレーションし、お金の使いどころを見極めなくてはと考えている。また、20代でトレンドやブランドなど、他人の基準を優先させた消費を経験したことの反省から、あれもこれもと欲張るのではなく、厳しい目を持って選び抜こうという意識が高まっている。震災の影響も手伝って消費に関する棚卸が進む中、この厳選志向は、今後の彼らの消費スタイルの核になっていくと予想される。厳選した上での限られたお金の投資先とされているのが、“暮らしに向き合う姿勢を整え、感度アップしてくれるようなモノコト”である。消費の自己裁量権獲得時期である20代でチャネルの多様化が進行し、ラグジュアリーも安さ優先商品も一通りフラットに味わった30代。「それなりのモノを使っていると、それなりの生活になる」という意識のものと、今の自分に合った“質”を備えたモノコトを得たいと思っているのである。ただし、モノは経験のきっかけに過ぎないとみなしているため、モノを所有することへの執着はない。そのモノが一体どのような暮らしを与えてくれるのかを重視しているのだ。
ポストバブル的ライフスタイルはプリ上世代以降に強まる
先に述べたように、世代や男女差よりも、未既婚・子どもの有無が価値観や消費性向に影響しているとはいえ、世代による影響が強く出ている面もある。特に、シェア、SNSを使った仲間づくり、地域や地元のコミュニティへの参加など、ソーシャルなライフスタイルに関しては団塊ジュニア世代よりもプリ上世代の関心・参加意欲が高い。プリ上世代は、もともと「ウチら=仲間」意識や地元意識が強いと言われ、「プリント倶楽部」のようなコミュニケーション消費を牽引してきた世代。「mixi」などのSNSについても20代の前半から触れている。こうした経験値の点からも、ポストバブル的なつながり消費に関する親和性は団塊ジュニア世代よりも高いと言え、プリ上世代以降の世代に本格化していくことが推察される。また、ファッションの世代差は30代に置いても色濃い。ベースとなっているテイストは20代の頃に受けたトレンドの影響を色濃く受けており、団塊ジュニア世代とプリ上世代とでは異なっている。前者ではアメリカンカジュアルブーム、後者ではギャルファッションや裏原・ストリートファッションの影響が未だに残っている。
ここまで、30代の生活プロフィールや消費の意識・価値観の特徴を見てきた。なかでも、今後の彼らのライフスタイルの核となるのは、無駄やストレスなく、日々を慈しむ暮らし方を求める気分と、それを実現するための「年齢を積み重ねたなりの質」を基準としたモノコトの厳選志向である。
次回は、30代を今後どのように攻略していけばよいのか、彼らが思い描く将来像を踏まえながら、その要件について解説したい。