「人」を中心に時間的バランスを考えながら、ストレスのない充実した将来像を描く
30代へのリサーチでは、「理想の暮らし」についてビジュアル・コラージュを作成してもらった。その代表的なものを以下(図1)にご紹介したい。いずれも現在の延長線上で無理なく手に入りそうな暮らしを描いている。将来に欠かせないモノ・コト・サービスをまとめるとライフステージを超えて以下の7点が共通点として浮上。いずれも、ストレスのない状態や自分の時間をどのようにつくるかに腐心している様子がうかがえる。
前編でも触れたが、「理想の暮らし」コラージュからも、心配事を減らす術として人とのつながりが不可欠と感じていることが分かる。中でも、家族の存在を強調するケースが多く、未婚者であっても、いずれは結婚したいという意向が見られる。また、ご近所や地域ネットワークに参画していることが自分たちを守ることになると考えている様子。親世代である団塊世代が核家族を志向し、どちらかといえば親族やご近所とのしがらみを避けてきたことを考えると真逆ではあるが、不安材料が多い時代だけに、その揺り戻しと捉えることもできる。ただし、地域との関係にどっぷり浸かりたいとは決して思っておらず、つかず離れずの仲、いざという時に頼れる関係性をつくっておきたいというところ。
図1 30代の理想の暮らし/ビジュアルコラージュ
30代の理想の暮らし/ビジュアルコラージュ1
30代の理想の暮らし/ビジュアルコラージュ2
※対象者本人がビジュアルをコラージュしたもの。FA流行誌vol.78「30代のライフスタイル」p28より抜粋
<欠かせないモノ・コト・サービス>
●安心感: 家族、ご近所とのつながり、地域ネットワーク
●心のゆったり感: 自然や四季が感じられる空間・環境、くつろげる住まい
●いつもの暮らしの充実 食生活へのこだわり、家族時間の確保
●日常の鮮度アップ: 旅行、プチハレイベント
●自分らしさの確認作業: 妻や夫、母や父から、自分に戻る時間の確保
●自分を成長させる刺激剤 :友人との時間、趣味、習い事に没頭できる時間
●いらいら払拭: ストレスの元になる無駄なモノや余計な情報の排除
「暮らし方」に向き合う彼らを攻略する商品要件とコミュニケーション要件
厳選志向、お手軽志向、自分優先志向など、彼らのモノや消費に対する意識に関しては、前編でまとめたが、ここでは、彼らに対する具体的な攻略要件(図2)について解説したい。図2 30代の攻略要件30代の攻略要件
<商品の要件>
●買い替えの動機づけ
すでにかなりのモノを所有している人たちだけに、いかに今持っているものを新しくしたいと思わせるかが大きなポイントになる。さらに言えば、モノを使い捨てにするのではなく、長く使いたいと思っている彼らのニーズに応えること。つまり、今持っているモノの捨て方、あるいは手放してもよい理由をきちんと用意する必要がある。「長く使えるモノが欲しい」という発言の裏側には、今の世の中、捨てるハードルも高いがゆえに、きちんとしたストーリーが必要なのだ。
●手軽さ・身軽さの提供
日々時間に追われているという意識もあり、手間をかけずに本格的なモノ・コトが手に入ること、しかもそれが手軽に行えることが大きな魅力に。コンビニ、ファミレス育ちの人たちだけにこの「手軽さ」は必須条件。実際、外でしか味わえなかった本格的なコーヒーが家庭で楽しめるコーヒーマシンは一家に一台あったりする。本格的な味はもちろんだが、ケアが簡単なことも購入を大きく後押ししている。一方、これまで自前でやっていたこと、所有していたモノ・コトを外で賄うといったことへの抵抗感も低くなっている。カーシェアリングはじめ、専門的な家事代行サービスなどは今後ますます暮らしの中に取り込まれていくに違いない。
●開かれた自己満足の提供
自己の充実や成長のためにお金を使いたいというマインドが強い彼らだが、消費のプロセスを味わいたい・周囲とのつながりを大切にしたいという意識も手伝って、単なる自己満足に終わらせたくないとも思っている。自分にとってのメリットや満足感が周囲の人のメリットや満足感にもつながって、人間関係が充実していくことが理想的な消費となるのだ。例えば、趣味のアクセサリー作りを友人に教えられるようになったり、誰かに買ってもらえるようになったり。本格的な料理を習い、家族や友人たちが喜んで食べてくれるシーンを創出したり。モノを買ったときに消費の満足度が頂点に達するのではなく、消費のプロセスを長いスパンで捉え、その間に成果やメリットが実感できるステップを提供することがポイントとなる。
<コミュニケーションの要件>
●メリットの合理的な説明
リスクヘッジやコスパを見極める姿勢が定着している上、厳選志向も強い人たちだけに、モノ選びの目は非常に厳しい。逆に多少金額が高いモノだったとしても、合理的な魅力が伝わりさえすれば買ってくれる余地が十分にあるということ。とはいえ、合理性の核としては、歳を重ねてきた彼らが満足できる質を兼ね備えていることが必須。つまり、物理的、情緒的両面から質の良さを理解させること、頭だけではなく、感覚に訴えるプレゼンも必要になるだろう。また、ネガティブな要素に関する情報も正直に提示することが重要だ。例えば、最新多機能商品が次から次へと発売される中においても、他の商品とは異なる優れた機能を強調するとともに、欠点も素直に事実として表示することが求められる。たとえ他商品より劣る部分があったとしても、その機能が自分にとって必要なければ彼らにとって何ら問題はない。それ以上に、欠点の表示などが信頼感を築くきっかけともなり、リピーター率も高まる可能性があると言える。
●プロセスを充実させる接客
コミュニケーションを重視する人たちでもあり、接客に対する評価はモノ選び同様に厳しく、商品価値のひとつとして捉えているところがある。押し売りではないが、聞きたい時にベストなタイミングでプロとしての情報を提供してくれるような、かゆいところに手が届く、つかず離れずの距離感が求められる。
ここでは世代やライフステージを超えて、30代に共通する全体的な消費傾向や将来像に対する考え方から彼らの攻略要件について解説した。ただ、今回は触れていないが、ことファッション・テイストや着こなし方法など嗜好性に関しては、やはり世代差が歴然とあり、現在の30代前半と後半とでは大きく異なっている。今後40代になる彼らをファッション分野で狙っていく際には彼らの世代刷り込みに留意する必要性があるだろう。