AX アナログトランスフォーメーション

コロナ禍によって、デジタル化が、一気に加速したといっても過言ではない。リアルな店舗への来店の減少に加えて、感染防止の観点から対面や接触の機会をなるべく減らすという側面においても、様々なサービスが、デジタルやネット、ECというものに置き換えられるべきだ、デジタル化しないと生き残れないという論調が非常に目立つ。

このことに関して、反論する気持ちも無いし、異論を唱えるつもりもない。
一方で忘れてはならないのは、相対するお客様は、全てをデジタルで済ませたいと思っているわけではないし、全ての体験をネットで行いたいと思っているわけでもない。対人だから得られる安心感や、人と人の接触がもたらす信頼感などを、わざわざ無くす必要もないということだ。例えば、様々なものの仕組みや蓄積された接客のノウハウ、お客様の好みなどをできるだけデータ化するのはいい。それによって、個人の中に眠っていたノウハウが共有されていく。但し、接客や販売をすべてデジタル化するというのは如何なものだろうか。お客様は、自身が最も快適で安心で使いやすい方法で、その店や商品にアクセスしたいはずだ。だから、デジタルトランスフォーメーション流行りだからといって、デジタルに一本化するというのは大きな間違いだ。これでは、培ってきたお客様との接点や関係も損なうことになりかねない。EC大国のアメリカでさえ、クリック&コレクトやBOPIS (Buy Online, Pick-up In-Store)ということが、増加している。デジタルでの注文なのだから、そのまま自宅に届けてしまえばいいことかもしれない。しかし、家の中で商品が届くのを待つよりも、自分の都合のいい時間についでに取りに行く方が、かえって便利だったり、快適だったりする場合もある。その際のお客様との接点こそが、お客様の満足度を向上させるポイントなのである。自宅への配送は、そのコンタクトポイントが宅配便業者に委ねられることになる。せっかくの信頼関係を最後まで提供することができないというデメリットもある。デジタルの良さは、お客様の都合によってカスタマイズできるという点であって、全てを送り手の都合で効率化することではない。
お客様との接点やコンタクトポイントを、アナログ的な観点で見直すこと=いわば、アナログトランスフォーメーションこそが、デジタル化の本質だと考える。



著者情報

第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ 小売業やメーカー向け戦略策定、商業デベロッパー向けの戦略・コンセプト策定・ディレクションなどが主な業務。時代を独自に読み解く視点で執筆・講演も行なう。同社ホームページにて「太田の目」を連載中。オリジナル調査「Key Consumer Indicators by ifs」のディレクターも務める。1963 年生まれの「ハナコ世代」。あいみょんの大ファン。

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