繊維月報の連載など、外部への執筆・講演でもおなじみの ifs名物プランナー太田敏宏による、時代を独自に読み解くコラム「太田の目」。
今回取り上げるトピックは、刻一刻と変化する世界情勢の中でも複雑な日中関係とその報道について。予測不能な時代の中で「時流を読む」ことの重要性と難しさを改めて説きます。
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クライアントから、景気や商業の今後という予測を頼まれる。そのため、ニュースとか、ネットの記事とかは、これらに活かせないかという視点で見るようにしている。だが、最近のニュースは、何かと断片的すぎるというか、どれが本当なのかと迷う場面に遭遇してしまう。
つい最近、「これはどうなってんの?」と思ったのは、インバウンドに関するもの。
インバウンドが好調で、JNTO(日本政府観光局)の発表によると、2023年7月の訪日外客数が232万人(2019年同月比77.6%)に達した。それをさらに助長するとしてニュースとして、8月10日に、ついに中国政府による日本への団体旅行の解禁という知らせが飛び込んできた。
早速、ニュース番組は、お決まりのように中国からの団体客に「日本で何を買いたいですか?」「予算はどのくらいですか?」という、“爆買い”に関する質問を浴びせる。「欲しい物はたくさんある。」とか、「いいものがあれば、いくらでも金を使う。」「日本の食べ物を色々と食べたい。」とか、レポーターが喜ぶような答えが返ってくる。中国人団体客の解禁で、インバウンドが再爆発するのは間違いないと伝えている。
まあ、ここまではいいとしよう。
チャンネルを変えると、中国不動産大手の恒大集団のニュースが流され、中国のバブルは崩壊したと伝えている。株式市場では中国関連株に加えて、インバウンド銘柄も売られる展開となったと伝えている。中国では若者の失業率が20%を超え、大学を卒業しても就職できず、SNSへの投稿では大学生の寝そべったゾンビスタイルの卒業写真ともにテロップが添えられている。
あれ?中国人は日本に大挙して押し寄せ、爆買いするんじゃなかったっけ?日本でいろんな食べ物を食べるんじゃなかったっけ?インバウンド再爆発は間違いないというのはウソ?
さらには、福島原発からのALPS処理水の影響で、日本の水産物や食べ物は危険だと、中国の市民たちも懸念しているというニュースが流れる。日本の企業や個人を標的として、処理水に関する“電凸攻撃”が起きているとの報道もある。別のチャンネルでは、国慶節の連休の日本旅行のキャンセルが相次いでいるらしい。処理水の放出の話は、かなり前から8月に予定されていたのに、インバウンドは、再爆発どころか、失速なんてことまで言われ始めている。
「とんちんかん」という言葉がある。鍛冶屋で師匠が鋼を打つが、弟子の打つタイミングがズレて、音が合わなくなるということに由来し、物事の辻褄が合わなかったり、ちぐはぐになったりすることを指す。「さすがVUCAの時代、やっぱ予測不可能ですね。」なんて言い訳は通用しない。断片的なニュースに踊らされて、とんちんかんな予測だけはしたくないものだ。
著者情報
第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ 小売業やメーカー向け戦略策定、商業デベロッパー向けの戦略・コンセプト策定・ディレクションなどが主な業務。時代を独自に読み解く視点で執筆・講演も行なう。同社ホームページにて「太田の目」を連載中。オリジナル調査「Key Consumer Indicators by ifs」のディレクターも務める。1963 年生まれの「ハナコ世代」。あいみょんの大ファン。
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