繊維月報の連載など、外部への執筆・講演でもおなじみの ifs名物プランナー太田敏宏による、時代を独自に読み解くコラム「太田の目」。
マーケットや生活者の日常に大きな影響を与える「値上げ」問題。今回は酒税法の改正のたびに積み重ねられてきた、飲料メーカーのたゆまぬ努力とプレーヤーのこれからを紐解きます。
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毎年4月と10月になると、ニュース番組で、今月から値上げや値下げの商品という特集が報道される。この10月には、酒税法改正によって、「第3のビール」の酒税が発泡酒と同じ46.99円へと引き上げられた。さらに、2026年10月には、「ビール」「発泡酒」「第3のビール」の酒税が統一される予定だ。
これまでを振り返ってみると、バブル崩壊の不況のなか、味わいや香りはビールに似ているが、価格はビールよりも安い「発泡酒」が1994年に登場。各社が発泡酒を次々と開発し、市場を作り上げていった。しかし、2003年に酒税法が改正され、発泡酒の価格メリットが薄くなり、消費量は減ってしまう。これに対応し登場したのが第3のビール(新ジャンル)だ。麦芽に代わって別の原料で、ビールに近い味わいを実現し、発泡酒よりもさらに税率が低く、価格も安いという新しいカテゴリーを開拓する。これにより、「ビール」「発泡酒」「第3のビール」という選択肢が生まれた。この10月の改正では「第3のビール」というカテゴリーそのものの存在が危機に見舞われてしまう。
新市場開拓→酒税改正→改正に対応した新市場開拓→酒税改正ということを繰り返してきた。企業の努力と政府の戦いが繰り広げられてきたのだ。さらには、酒の安売りが規制され、安く提供したい、安く呑みたいという企業と消費者の希望も制限されてしまう。それでも、ビールメーカーは戦い続けるのだ。この10月の改正でも、ビールに割安感が出ることに着目し、各社新商品を投入している。おそらく、2026年の酒税統一に向けても、各社が秘策を練っていることだろう。まるで、様々な妨害工作を乗り越えて、逞しく生き抜いていく、サラリーマンを主人公にした日曜劇場を見ているようだ。
さらには、クラフトビールという新たな登場人物も加わる。国内ビール市場におけるクラフトビールのシェアはまだ1%ほどだが、小規模の醸造業者(マイクロブルワリー)には、酒税の軽減措置もあり、年々成長している。大企業が新市場とともに開拓してきた、新しい味わいのビールとともに、地方の醸造業者たちが追求する、個性あふれる味わいという新たな戦いも加わり、ドラマは佳境へと突入していく。まだまだ、酔いは醒めそうにない。
著者情報
第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ 小売業やメーカー向け戦略策定、商業デベロッパー向けの戦略・コンセプト策定・ディレクションなどが主な業務。時代を独自に読み解く視点で執筆・講演も行なう。同社ホームページにて「太田の目」を連載中。オリジナル調査「Key Consumer Indicators by ifs」のディレクターも務める。1963 年生まれの「ハナコ世代」。あいみょんの大ファン。
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