「量から質への転換点を経て、アジアの脱炭素分野で成長機会を創出する」
本稿では前半部でESG経営に関し企業情報開示の抑えるべき要諦を著し、後半部では国内繊維産業の持続可能性について将来を見据えて今行動すべき視座について説明していきたいと思う。
ESG経営は環境・社会の良化と企業価値向上を同期に実現し長期的に経営レジリエンスを高めることである。
市場関係者が企業価値を評価する際、非財務情報を重要視する傾向の背景には、財務諸表だけでなくその企業活動が及ぼす気候変動リスクへの影響などマルチキャピタルな視座が求められていることが挙げられる。
その開示対象も投資家に限定せずに、社員や地域社会などステークホルダー全体に拡大する傾向にある。
言わずもがなだが、過去に海外の機関投資家が重要視してきたのはショート・タームの決算ガイダンスを中心軸とした開示である。一方で近年高まりを見せている視点は、「中・長期で市場環境を分析した強靭性の高い経営戦略であるか」、「開示内容は透明性・公正性を担保しているか」、「情報間の結びつき、相互依存性やトレードオフについて明示しているか」等開示のありかたも変化してきている。将来への持続的な存続を説明することが求められているのである。
パリ協定目標達成またその先のカーボンニュートラル社会の実現に向けては、ファイナンスの役割は重要である。
世界のサステナブルファイナンス金額は2020年35.3兆ドル(2018年比でプラス4.6兆ドル)に達した。
ESG投資の中でも特に影響力が大きい脱炭素分野では債権(グリーンボンド)発行も拡大している。その発行額は2020年 2,699億ドルとなり、主にはエネルギー、建物、交通などインフラ関連7分野へ集中している。現在は製造業含めた「産業」分野は0.45%と低位に留まるっているが、今後排出量割合から算出した網羅性だけでなく、科学的根拠、パリ協定との整合性、技術のアップデート状況等で対象となるセクターが組まれるようだ。
一方で、EU域内での環境・社会に関する開示の法制化の流れは、日本企業のダイベストメントリスクにつながる。欧州議会が2021年3月に可決した人権・環境等のデューデリジェンス実施の法制化を求めるイニシアティブレポートでは、域内市場で事業展開している企業、また直接の適用対象でなくても、サプライチェーンに組み込まれている場合は対応を要請されると記載されている。
では、日本のファッション産業はこのまま世界のルールを受け入れるだけで良いのか?今からはファッション産業の進むべき視座を展開していきたい。
結論から述べると、国内ファッション産業は、拡大するアジアの中間層をターゲットにアウトバウンドを獲得することが産業の持続可能性を高めることである。それを目的に今からすべきことを提言していきたいと思う。
第一に取り組むべきことは産業全体が「筋肉質」になることである。
その前提には国内ファッション産業の過去20年の状況はおおよそ供給量が2倍、価格が4割低下しており、需給ギャップとブランド力低下を招いているという事実からである。
適量化はプロパー消化率の向上と物流費や販売外人件費、在庫による評価損などの本来必要ないコストの低減をもたらし、収益性を向上させる。
第二に取り組むべきは、産業を循環型に変容することであり、従来のサステナビリティ型ビジネスを進化させ、経済活動と地球環境の修復や再生を同時に実現する「リジェネラティブビジネスプラットフォーム」を構築することである。
世界中の再生資本主義の研究成果や技術を集めて産業界が連携することで実現する構想である。
最後は、適量化、循環型へ変容する仕組、情報開示スキーム、環境再生システムを日本のビジネスプラットフォームとしてアジア市場に導入することである。
国内市場は「量から質へ」転換し、成長するアジア市場で日本のコアコンピタンスを反映したブランド力や仕組で成長市場を創出する。
このロードマップの実現には、作る側の企業の責任だけでなく、使う側や伝える側の協力が不可欠である。
ファッションは時代の象徴であり生活文化である。市場全体からエールが得られる可能性が高いと認識している。
また、日本医は世界的に見ても例のないバリューチェーン全体に会員を有するJSFAなどの企業連合が存在する。構想のプロトタイピングが可能になり実装ならび仕組化も促進されやすいと認識している。
そのためにまず皆との対話のためにファッション産業全体で透明性を高めることからスタートできれば幸甚である。
※上記内容は 『繊研新聞 2022年7月28日付』 にて掲載
掲載元/繊研プラス : https://senken.co.jp/
著者情報
ifs未来研究所 所長代行 アントレプレナーとして事業経験後、現職に就く。 2022年よりifsのシンクタンク組織であるifs未来研究所を継承し、環境・社会・経済を「一体かつ不可分」とした未来型協働解決アプローチを実践する。 74年生まれの団塊ジュニア世代。
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