広がる“研修型ワーケーション”
コロナ禍でテレワーク制度の導入が進むなか、ワーケーションが注目されている。2019年に全国的にワーケーションを普及促進させることを目的として設立された「ワーケーション自治体協議会(WAJ)」には現在、1道22県171市町村(21年6月24日時点)が参加しており、観光地としても人気のある北海道や沖縄、リゾート地として有名な長野・軽井沢などもワーケーションの誘致に力を入れている。
その一方で、勤務実態の管理がむずかしいこと、さらには業務効率が下がるのではないか、オフィスで働く他の社員とのコミュニケーションが取りづらくなるのではないかという懸念から、導入に懐疑的な企業が多い。
そうした懐疑心を払拭すべくワーケーションの多様化も進んでいる。その一つが、非日常環境でチームビルディングやコミュニケーション活性化、社員育成、課題解決などに取り組む“研修型ワーケーション” だ。
従来からリゾート地での社員研修は広く導入されており、大企業の社員研修施設がリゾート地にあることも珍しくない。しかし、研修型ワーケーションは、その土地の特性を活かしたモノやその地域でしか体験できないコトなどのコンテンツがアクティビティとして含まれていることが特徴だ。
㈱日本能率協会マネジメントセンターは「here there」と題し、東京での学び=hereと、国内外でのさまざまな地域でのワーケーション=thereから構成されるプログラムを展開しており、たとえば新潟県妙高市におけるワーケーションではナビゲーショントレッキングをはじめとした自然体験のなかから、ビジネス環境における対応力を学ぶことができる。新入社員研修などで実施されることのある「サバイバル研修」のようなものではなく、人材育成やアウトドアの専門家とともに、良質な思考を促すため、普段関わることのない他社や地域の人たちと焚火を囲んで行なう価値観交流や問いかけ、振り返り、内省の時間を多く設けている。そうした実体験を通して、コミュニケーションやリーダーシップ、チームビルディング、リスク管理など、不確実性の高い現代のビジネス環境だからこそ求められるマイドや対処の仕方を学ぶことができるプログラムとの位置づけである。
また、㈱AIDAMAが運営するサービス「AIDAMA」では、ミレニアル世代のプランナーが現代の日本社会に生きる“仲間” 目線で、「FITNESS(健康なカラダとココロづくり)× FOOD(食) × CULTURE(地域文化体験)」を基軸としたアクティブワーケーションを提案している。体験コンテンツのパートナーにもこだわり、禅で学ぶアンガーマネジメントなどその地域でしかできないコト提案をすべく、宿泊施設や実施する地域との連携を図っている。
AIDAMAの研修ではビジネスマナーや一般常識といったスキルだけではなく、メンタルヘルスやフィットネスなどのオリジナルコンテンツを通して、自分や他者との向き合い方を考える時間を提供し、周囲とのコミュニケーション力の向上やチームビルディングを実践していくことが目指されている。
「仕事場所の提供」にとどまらない価値創出を
このように、研修型ワーケーションは通常のオフィス会議室では得られない多彩な体験や学びを通して、新たな発想や気づきを生む。さらに、不確実な時代に適応できる人材の育成や、他者との前向きでクリエイティブな関係性を育てるベースづくりの役割も担う。このような研修を経験した企業が、より本格的にワーケーションを導入するという可能性も十分に考えられる。
ワーケーションに対して懐疑的な企業を説得し、その導入を進めていくためには、単に仕事場所を提供するということだけでなく、その土地・地域だからこそ提供できるものは何か、を考えることがキーになるはずだ。誘致する側はその地域の活性化に寄与してくれそうな企業に声掛けし、導入する企業側は、その地域の自治体や宿泊施設、地元企業とともに新たなビジネスや産業の可能性を創出する。こうした次元にまで昇華することで、ワーケーションに新たな意味が付加されることが期待される。
著者情報
第1ディビジョン マーケティング開発第1グループ シューズブランドのインポート業務を経て、現部署にてビューティ、ファッション、食をはじめとしたさまざまなクライアントに向けてifs オリジナル世代論を活用したターゲット分析やマーケティングリサーチを行なっている。1994 年生まれのLINE 世代。趣味はショッピング、部屋づくり、Netflix、漫画。
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