コロナ禍で躍進するD2C
コロナ禍の消費者の行動・需要変化により、流通小売業界は明暗が分かれている。
経済産業省による2020年の小売業動向調査では、コロナ禍の巣篭もり需要により、業態別に見ると、スーパー、家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンターでは前年より販売額が増加し、百貨店、コンビニエンスストアでは減少した。
特に百貨店は、度重なる営業自粛や時短要請により前年比で-25.5%と大きく減少した。百貨店を主戦場とする企業やブランドは苦境を強いられ、販路を求めECの出店を加速するなどデジタル領域への注力、DX化に本格的に着手してきている。
一方でこの状況を苦とせず、成長を続けている企業やブランドも存在する。その多くはD2Cというビジネスモデルを展開している。
D2CとはDirect to Consumerの略で、メーカーやブランドが企画した商品を、自社のECサイトで販売するビジネスモデルだ。
このD2Cは従来の「直販」とは異なり、消費者に直接販売するというモデルに、デジタルやテクノロジーという要素が加わっている。
スマートフォンから場所や時を選ばず、インターネットに接続出来るようになっていることや、SNSの普及によって画像や動画でコミュニケーションが取れるようになっていることによって、新しいビジネスモデルとして進化してきている。
ECサイトを始めとする様々な顧客接点において顧客との直接的なコミュニケーションを行うことで、「つながり」を強固にし、ブランドに対するロイヤルティを醸成していくことがこのモデルのベースであり、実店舗を持たない立ち上げたばかりのメーカーやブランドでも急成長を遂げているケースが増えてきている。
また、もともと卸中心でビジネスを展開していた企業がD2Cモデルで自社ブランドや自社ECを立ち上げるというケースも多く見られる。
D2Cを支えるヘッドレスコマース
D2Cモデルにおいて、自社のECサイトは顧客のニーズに合わせて迅速かつ柔軟に進化出来る状態が求められている。そこで注目されているのが、ヘッドレスコマースという概念だ。
昨今、顧客接点が多様化しており、自社EC、ブログなどのサイト、スマートフォンアプリ、SNS等に加え、スマートスピーカーやVR・ARなどの技術が今後普及する時代において、対応すべきカスタマージャーニーは複雑化している。
ヘッドレスコマースは、顧客との接点となるフロントシステムと、バックオフィスシステムを切り離すことで柔軟なシステム構造とし、複雑化する顧客の購入体験に対応するという発想である。従来のECシステムは、フロントシステムとバックオフィスシステムが一体型であるモノリシック(1枚岩)と呼ばれており、システム対応やデザイン、サービス開発・拡張などにおいて制約があり、迅速かつ柔軟な対応が難しいケースが多かったが、ヘッドレスコマースはこれが容易になるという点で注目されている。
カナダ発のShopifyは、このヘッドレスコマースの筆頭である。
Shopifyは2004年に創業し、2020年には全世界175カ国、170万店舗以上のストアで利用されている世界最大級のECプラットフォームにまで成長を遂げており、世界ではスタンダードになりつつある。
近年は日本での導入も増えてきており、数百万人規模の顧客を擁する大企業もShopifyで自社ECサイトをリニューアルするケースも見られる。
ヘッドレスコマースを採用する背景として、顧客とのつながりを強め、ニーズに合わせて柔軟かつ迅速に変化していくことを重要視しているのは間違いない。
消費者の行動や需要が目まぐるしく変化している中で、D2Cの考え方は更に広がっていくだろう。
日本の小売業界のECを取り巻く環境は変革の時を迎えている。顧客に合わせて迅速かつ柔軟に変化に対応していく、さらに未来の変化に対応できる体制を整えておくことが重要になる。
著者情報
伊藤忠ファッションシステム㈱ 第1 ディビジョン マーケティング開発第1 グループ デジタルマーケティングコンサルタント ファッションECモール、大手アパレルメーカーにてEC運営、U・I UX改善、CRM 領域を中心としたデジタルマーケティングを経験後、現職に至る。事業会社での経験を活かし、生活者視点から、顧客接点の最適化・ロイヤルティ向上を軸としたマーケティングに従事。1990 年生まれのハナコジュニア世代。趣味はスニーカー収集で、コレクションは100足以上。
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